――あ、やばい。
自分で自分の状態に気づく。
これ、多分、
世間一般で言う『好き』ってやつだ。
でも、口に出した瞬間に、
何かが変わってしまいそうで。
電車の揺れと一緒に、その気持ちまで飲み込んだ。
「春日井先輩は」
代わりに、別の質問が口をついて出る。
「バスケのときと、今のステージと、どっちが緊張しました?」
「お」
春日井先輩が、
少し楽しそうに目を細める。
「いい質問」
「インタビューみたいに言わないでください」
「インターハイ予選と、今日の一曲目で比べると……」
少しだけ考える仕草をする。
「今日かな」
「え」
「バスケはさ、何回もコート立ってきたから」
窓の外の暗闇を見つめる。
「もちろん大事な試合は緊張するけど、〝ここでシュート決められなかったら人生終わりだ〟みたいなことは、あんまり思わないようにしてた」
「そういうメンタルの作り方、教えてほしいです」
「でも今日のライブは、ちょっと違った」
春日井先輩は、
ギターケースのストラップを握り直す。
「足のこととか、バスケのこととか、山谷さんのこととか」
一瞬、言葉が止まる。
「私のこととか?」
聞き返さずにはいられなかった。
「全部ごちゃごちゃしてたものを、〝一回ここで形にしたい〟って思ってたから」
少し照れたように笑う。
「だから、ミスったら本気でへこむ覚悟で立った。結果、ソロはへこんだけど」
「でも、楽しかったんですよね?」
「うん」
即答だった。
「楽しかった。バスケでいうと〝ゾーン〟入ってるときみたいな感じ、ちょっとだけ思い出した」
その言い方に、胸がじんとする。
「だからさ」
春日井先輩は、こちらを向く。
「もうちょい、続けたいなって思ってる」
「バンドを?」
「うん。今日で終わりじゃなくてさ。文化祭も、その先も。山谷さんが嫌じゃなければ、だけど」
嫌、どころか。
〝もっと歌いたい〟という気持ちが、
さっきからずっと喉の奥でくすぶっている。
「……嫌じゃないです」
できるだけ平常心を装って言う。
「むしろ、続けたいです」
その一言に、
春日井先輩の肩の力がふっと抜けたのが分かった。


