◇
「そういえばさ」
いくつか駅を過ぎたころ、ふいに先輩が言った。
「ライブ終わったあと、あの他校のボーカルの子に話しかけられてたでしょ」
「見てたんですか」
「見てた」
「盗み聞きしてました?」
「ちょっとだけ」
悪びれない。
「〝歌詞刺さりました〟って言ってたじゃん」
「言ってましたね」
「あれ、めちゃくちゃ嬉しかったでしょ」
「……はい」
誤魔化しようがない。
「羨ましかった?」
「え?」
思わぬ方向からの問い。
「何がですか」
「あの子」
春日井先輩は、膝の上で指を組みながら言う。
「同じ〝ボーカル〟同士でさ。俺、ちょっと見てて羨ましかったもん」
「どういう意味で」
「なんか、〝自分の歌詞をちゃんと受け止めてもらえる場所に、もう立ってる人〟って感じがして」
それは、私も少し感じていた。
「あの子、絶対場慣れしてましたよね」
「してたね。マイクの立ち姿とか」
春日井先輩は、
窓ガラスに映る自分の姿をちらっと見る。
「でもさ」
少し笑う。
「正直に言うと、俺が一番嬉しかったのは、あそこで〝山谷さんの曲、よかったです〟って言われてたことなんだよね」
「先輩の曲でもあるでしょ、あれ」
「まあ、作曲クレジット半分くらいは欲しいけど」
「やっぱりロイヤリティ目当てだ」
「でもさ」
真面目な目になる。
「〝今日まで生きてきたんだよ〟って言葉、書けるの山谷さんしかいないから」
その断言が、くすぐったくて、
怖くて、何より嬉しかった。
胸のあたりが、じんわり熱くなる。


