「一個だけ、約束して」
「なに」
「その子の怪我のこと、〝自分の責任〟だとか、〝私がちゃんとしてれば〟とか、絶対思わないこと」
その言葉に、胸がきゅっとなった。
「……ちょっと思った」
あの試合の日。
『無理しないといいけど』と祈った自分。
『頑張れ』と声を出せなかった自分。
「私がちゃんと止められてたら、とか。もっと早く病院行くように言えてたら、とか」
「現実的に無理よ」
義母は、はっきり言う。
「そういうの、大体〝たられば〟だから。全部背負おうとしたら、歩実が先に折れちゃう」
鍋から立ちのぼる湯気の向こうで、
義母の横顔が少しだけやわらいで見えた。
「未来なんて誰にだって見られない。だから、怪我したのは、その子の人生の中の一つの出来事。歩実は、歩実の人生の中で〝何をするべきか〟だけ、ちゃんと責任持ちなさい」
その言い方は、
叱っているというより、
背中を支えてくれているみたいだった。
「……ありがとう」
自然に、その言葉が出た。
「私も、歩実も」
義母は、笑う。
「〝人生って簡単には終わらないのよ〟。続きがあるから、何度でもやり直せる」
〝人生って簡単には終わらないのよ〟というフレーズに、
胸の奥がじんとする。
カレーの匂いと一緒に、
その言葉が部屋に満ちていく気がした。


