「そのバスケの子のこと、ちゃんと話してごらん」
「え」
急所をつかれた感じがして、変な声が出た。
「バスケ部の春日井くん」
「いや、その、えっと」
「〝怪我した先輩と一緒にバンドやります〟って話を聞いて、〝その人のことどう思ってるか〟聞かない親のほうが不自然でしょ。歩実が放課後にバスケの試合観戦してたの知ってるんだから」
義母の目は、
ちょっとだけ面白がっているようでもあった。
「どう、って」
「好きなの?」
ストレートだった。
反射的に、
『違う』と言いかけて、言葉が止まる。
川沿いの夜。
『今日まで生きてきたんだよ』。
コート上で、駆け回る姿。
病室で、『どういたしまして』と笑った顔。
全部が、
胸の中でぐちゃぐちゃに混ざっている。
「……よく分からない」
それが、今の自分の本音だった。
「でも、〝もう会えなくなったらどうしよう〟って思った人ではある」
義母は、少しだけ目を細めた。
「それ、多分、世間一般では〝好き〟って言うんだと思うけど」
「そうなんだろうけど」
認めてしまうのが怖くて、
テーブルのポーチの端をいじる。
「でも、〝好きです〟って言った瞬間、その気持ちに責任取らなきゃいけない気がして」
「責任ねえ」
義母は、少し笑う。
「気持ちに責任取るって、難しい言葉使うようになったのね」
「先輩のせい」
「春日井くん、ひょっとして難しいこと言うタイプ?」
「ちょっと」
義母は、カレーの鍋に火をつけ直す。
「まあ、いいや」
おたまでルウをゆっくり溶かしながら言う。
「好きかどうかは、そのうち自分で分かるでしょ。バンドやって、一緒に音出して、いっぱいケンカして」
「ケンカ前提なんだ」
「バンドと家族は、ケンカしないとむしろ変よ」
その言葉に、少しだけ安心する。


