「で。なんでバンド?」
真正面からの問い。
私は、
用意しておいた言葉を一度全部飲み込んでから、
ゆっくり選び直す。
「歌いたいから、皆んなで演奏したいからって言ったら、怒る?」
「理由としてはシンプルでいいと思うけど」
義母は、椅子に腰をおろした。
「問題は、そこに〝どれくらいの本気〟が乗ってるかどうか、かな」
本気。
その単語に、心臓がひとつ跳ねる。
「中学のときのピアノも、合唱コンクールのソロも、途中で逃げ出したじゃない」
図星すぎて、何も言えない。
「逃げた、っていう言い方はきついかもしれないけどね。でも、途中でやめるって、そういうことよ」
義母は、私から目をそらさない。
「今回も、〝中途半端にやめる〟可能性はあると思う?」
「……あると思う」
認めるのは、苦しかった。
でも、そこだけは嘘をつきたくなかった。
「また怖くなって、〝やっぱりやめる〟って言うかもしれない」
「うん」
義母は、小さくうなずいた。
「それでも、やりたい?」
まっすぐな目。
何秒か、時間が止まったみたいだった。
川沿いの夜。
中三の冬。
あのとき、
欄干の向こうを本気で選ぼうとした自分。
春日井先輩の『今日まで生きてきたんだよ』。
空き教室の『今日もちゃんと、ここにいるね』。
全部が、胸の中でひとつの問いに変わる。
――それでも、やりたい?
「やりたい」
気づいたら、そう言っていた。
自分の声に、自分でも驚く。
「途中で怖くなるかもしれないけど。それでも、やってみたい」
義母は、しばらく黙って私を見ていた。
それから、小さく息を吐く。
「……そっか」
ほんの少しだけ、表情がやわらいだ。


