義母は、
カレーの鍋からおたまをゆっくり引き上げた。
「バンド?」
短く繰り返す声には、
少しだけ警戒が混ざっていた。
「うん。学校の先輩や友だちと」
自分の声が、
思ったより震えていないことに、少し驚く。
義母は火を止めてから、
コンロの前で腕を組んだ。
「軽音学部に入るとか、そういうこと?」
「部活じゃなくて、文化祭に向けての〝有志バンド〟みたいなやつ」
言いながら、
自分でも『ちゃんと説明できてるかな』と不安になる。
「メンバーは?」
「ボーカルが私で、ギターが春日井先輩、ベースが瑠奈で、ドラムが夏目先輩」
「……なるほど」
義母は、少しだけ目を細めた。
名前を出した順番だけで、
何かを察したような顔。
「バスケ部の子よね、〝春日井くん〟って。高校のホームページで見たことあるわ」
「うん。でも、今怪我してるの。靭帯断裂とヒビがはいってるって」
その一言で、
病院の白いカーテンと、
あの日の鈍い音がよみがえる。
「大変ね。ちゃんとリハビリしてる?」
「うん。松葉杖で学校来るくらいには」
義母は、
ほっとしたように小さく息をついた。
そして、少しだけ表情を引き締める。


