君が照らす人生は、いつだって温かい


◇

その日の夜。

家のキッチンは、
カレーの匂いで満たされていた。



「おかえり」



「ただいま」



義母は、エプロン姿で鍋をかき混ぜている。

いつもと同じ光景。

いつもと同じ『ただいま』。

だけど、
今日はそのあとに続けたい言葉があった。

鞄を自分の部屋に置いてから、
リビングに戻る。

テレビはついていない。

窓の外は、すでに薄暗くなり始めていた。



「お皿出してくれる?」



「うん」



食器棚から皿を出しながら、
心臓が忙しく動く。


――今言わなかったら、きっとまた先延ばしにする。


そういう自分は、よく知っている。

『また今度でいいや』を続けた先に、
何も残らなかった夜を、私は知っている。

テーブルに皿を並べ終わって、
義母のほうを向く。



「あのね」



声が、少し震えた。



「うん?」

 

「話したいことが、あるんだけど」



義母が、火を弱めてこちらを見る。

その目は、いつもより少しだけ真剣だった。

私は、指先をぎゅっと握りしめる。



「学校で……バンドをやってみたいなって、思ってて」



その一言を、なんとか外に出した。

あとは、義母が何を言うのかを、
待つしかなかった。