【短】キミに恋するラブソング

――キーンコーンカーンコーン

チャイムの低音が、屋上でギターを抱えたままうたた寝をしていた私の耳に響く。

重いまぶたを上げ、ぼーっと空を眺める。

薄い雲で見え隠れする太陽の光が、寝起きの瞳によく沁みる。

……眩しいのに、目を逸らしたくないのはなんでだろうか。

そのまま空を眺めていると、ふっと影が重なった。

「……悠里(ゆうり)

幼馴染の音羽悠里(おとはゆうり)
運動も勉強も何でもできて、通称“完璧な王子さま”。

……なんて。悠里の“完璧”は努力でできていることを、私は知っている。

凛音(りおん)、またサボり?」

「まぁね。悠里こそ」

「凛音と一緒にしないでよ」

「なにそれ。サボりでしょ?」

「サボりだけども」

まぁサボり魔と一緒ではないな。

私なんてサボり常習犯だからな。

「めずらしいね、悠里がサボるとか」

「そう? たまにサボるよ。凛音ほどじゃないけど」

一言余計。否定できないけど。

悠里は、私の向かい側に腰を下ろした。

「歌う? 曲弾いてあげるよ」

ギターの肩掛け紐を掛け、私は問う。

「……俺そんなに歌上手くないんだけど」

「嘘つけ」

悠里はふはっと笑いながら「歌う」と答えた。

綺麗な澄んだ声してるくせに。私よりも、全然。

知り合いの中だと、たぶん悠里が一番歌上手いし。

「何の曲がいい?」

「何の曲弾けんの?」

「大体なんでも」

「じゃあ”夕焼けイノセント”とか?」

悠里っぽいな、なんて。

“夕焼けイノセント”は、私も大好きな曲。
何百何千と弾いたことのある曲だし、人生で初めてギターで弾いた曲でもある。

「いいよ。めっちゃ得意」

辺りに静寂が流れる。

やがて、ポロン……ポロン……、と柔らかな音色が響く。

……やっぱり、歌上手いじゃん。

自然と頬が緩むのを感じる。


“夕焼けイノセント”


“イノセント”の意味は、純粋・無垢――そして無邪気。

この曲は自分にコンプレックスを持った女の子が主人公。
その女の子の心情とか悩みとかが歌詞に入っていて、切なくも共感できる曲。

夕焼けで赤く染まった海をバックにしたMVもある。


いつの間にか弾き終わり、再び静寂が流れる。

静寂を破ったのは悠里だった。

「相変わらず上手いね、ギター」

「悠里こそ。歌上手いじゃん」

「そう? ありがと」

「ねぇ、悠里は――」


――キーンコーンカーンコーン


授業終わりのチャイムが流れる。

「ごめん、なんか言った?」

「あ、いや……なんも」

首を横に振って答える。

「じゃ、俺いくね。弾いてくれてありがとね」

「ん」

パタン、と扉が閉まる音がする。

悠里の姿が完全に見えなくなったのを見て、ふぅ、と息を吐く。

「また、言えなかった……」

座ったまま足を広げ、天を仰ぐ。


「ねぇ、悠里……言ったらキミはどんな反応をする?」


返事はない。当たり前だ。
私の隣には、今誰もいないんだから。





翌日。

なんとなく朝早くに家を出て、学校に向かった。