モフモフ王子様のお世話係になりました!~イケメン王子と秘密の共同生活~

 夜の庭園に、リーン、リーン……と羽虫の鳴く声が響いていた。

 月明かりに照らされた大理石のベンチに、一人の少年が腰かけている。

 目が覚めるような朱色の漢服。
 さらりと流れる黒髪。
 まだ少年らしい幼さを残しながらも、切れ長の瞳と整った顔立ちは、人々の視線を奪わずにはいられない。

 この国の第一王子――。

 彼はこれまで王宮の豪華な椅子に数えきれないほど座ってきた。
けれど、冷たくて少しひんやりするこの大理石のベンチが、一番落ち着く。

「……遅い」

 王子がぽつりとつぶやいた、その時だった。

 バタバタバタッ!

 騒がしい足音が庭園に響く。

「お、王子ぃぃぃー!」

 息を切らしながら駆け寄ってきたのは、王子と同じ年頃の少年だった。

 王子が生まれた時からずっと一緒に育った幼なじみであり、今は執事も務めている。

「こんなところにいらっしゃったのですね!」

「それより、どうだった?」

 王子は立ち上がる。
 期待に満ちた瞳。
 だが執事は気まずそうに目をそらした。

「そ、そのぉ……」

「まさか」

「申し訳ありません! 今回も完売でしたぁぁ!」

「なんだって!?」

 王子は思わず頭を抱えた。

「いつになったら私の手元に来るのだ!」

「仕方ありませんよ~」

 執事は肩を落とす。
手元のタブレットを操作して、証拠となる画面を王子に見せた。

そこには、ピンクで統一されたHPにずらっとパンダのぬいぐるみが並んでいる。

「ひとつひとつ手作りですし、大量生産もできないそうですから」

「くっ……」

「しかも入手困難すぎて、今では高額なヴィンテージ品まで出回っているとか」

 王子の眉がぴくりと動く。

「これが……唯一の手がかりだというのに」

 ため息をつきながら空を見上げた。

 深い夜空。
 そこには無数の星が輝いていた。
 その中のひときわ明るい星が、なぜか自分を励ましているように見える。

「同じ夜空を……あの方も見ているのだろうか」

「はい?」

 執事が首をかしげる。
しかし王子は突然、何かを決意したように顔を上げた。

「よし」

「え?」

「私は決めたぞ」

「な、何をです?」

 王子の口元が不敵に上がる。

「直接、作り手に会いに行く」

「……は?」

 執事は固まった。

「お、お待ちください! 王子が王宮を出るなんて――」

「止めても無駄だ」

 王子はきっぱりと言い切る。
 その瞳には、もう迷いなどなかった。

「必ず会いに行く」


 それが――

 国を超えた運命の出会いの始まりだとは、まだ誰も知らなかった。