無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます


 研究室の窓際の席で、幹人は図面に向かっていた。
 トレーシングペーパーの上に引かれた線は、まだ途中だ。消しては引き、また消す。その繰り返し。構造模型の影が、白い机の上に落ちている。
 天井からの蛍光灯が均一に照らすせいで、時間の感覚が薄れる。

 この時間は嫌いじゃない。誰に話しかけられることもなく、黙々と手を動かすだけでいい。
 設計課題のテーマは公共施設。使う人の動線、光の入り方、周囲との関係性。考えることはいくらでもある。
 建築は生活を支えるもの。それは、ずっと変わらない感覚だ。
 人のため、と言われると少し距離を感じるが、暮らしの中に自然にあるものだと思えば、すっと腹に落ちる。

 隣の席では、後輩たちが話している。ゼミの愚痴だとか就活だとか、そんな類の会話だ。
 幹人は顔を上げない。聞こえてはいるが、混ざる理由がない。

 線を一本、引く。納得がいかず、すぐに消す。
 この作業は裏切らない。向き合った分だけ、かたちになる。

 ふと時計を見ると、思ったより時間が経っていた。
 鞄を肩にかけ、研究室を出る。夕方のキャンパスは人が多い。
 その中を歩きながら無意識に足早になる。人の流れに長く身を置く理由が、見あたらなかった。
 帰宅してアパートのドアを閉めると、外の音が途切れた。部屋の灯りを落としたまま、ケージの前にしゃがみ込む。