無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます

 「違います」

 幹人が即座に否定して、天音と目が合う。その一瞬が妙に気まずい。
 鈴川はそれを見逃さず、満足そうに肩をすくめる。

 「ま、期待してるわ。近いうちに、正式に同じ現場で仕事できるの」

 そう言って去っていく背中を見送りながら、休憩室の空気がゆっくり戻っていく。
 天音はステンレスボトルを持ったまま、小さく息を吐いた。

 「すごいね」

 ぽつりと漏れた言葉に、幹人は少し困ったように笑った。

 「さっきまで少年扱いだったのに」
 「それとこれはべつ」

 幹人は照れたように視線を逸らした。即戦力が期待できそうだ。
 ふと腕時計に目をやると、昼休みの終わりが近づいていた。

 「そろそろ戻らないと」
 「ですね」

 紙袋と弁当箱を片づけながら立ち上がる。そうして昼休みは終わり、ふたりはそれぞれの席へ戻っていった。
 なのに午後の仕事をはじめてからも、香ばしい匂いとあの笑顔がふとした拍子に頭を過った。