無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます

 「はい」

 男性の顔を見た瞬間、天音は思いきり息を吸い込んだ。目を見開き、その人物を凝視する。

 (嘘でしょ……)

 情けなく口まで半開きになった。忘れもしない、あのカメレオン男だったのだ。
 いや、正確にはカメレオンの飼い主。ラーメンのトッピング全部のせの相席男だ。
 あのときとは違って今日はスーツを着ているが、間違いない。
 信じられない状況に呼吸を忘れて彼を見る。

 「加地幹人です。大学院の二年、二十四歳。来年の四月からはこちらに入社することが決まってます」

 にこやかにそう言って、軽く頭を下げた。

 (四月からうちで働く!?)

 続けてもたらされた情報が、天音をさらに混乱させる。衝撃的な出来事が目の前で起こっていた。

 「加地くんは、すでに一級建築士の資格も持ってるの。期待の新人よ」

 総務部のみんなから「おぉ」という感心した声が漏れる。
 素直にすごいと思うと同時に、風変わりな挙動をしていた人間が、国家資格を持っていることに驚く。
 今は大学を卒業すれば実務経験を積む前に一級建築士の資格を取得できるが、並大抵の努力では無理だろう。さらに知識を得るべく大学院へ進んだのだから、相当な勉強家だと推察できる。