昼下がりの総務部は、比較的静かだった。電話の音も落ち着き、キーボードを叩く音だけが一定のリズムで流れている。
幹人からプロポーズされて二週間が経過した。恋人のときとなんら変わらないけれど、婚約者という肩書きは心をより強くしている。
両親にも、四つ年下の彼と結婚を前提に付き合っていると報告した。最初は〝年下〟に引っ掛かったふたりも、姉の咲楽に『年齢がなんの障害になるっていうの。天音が自分で選んで、ちゃんと幸せそうなら、それで十分じゃない?』と言われ、『それもそうだ』と納得。気の利いたフォローのおかげだ。
一連の幹人とのことを誰より知っている理世にいたっては、『正直、もっと拗らせると思ってたから安心した』と言って祝福してくれた。
結婚は今すぐではないけれど、少しずつ環境が整っていくのを実感しているところである。
「設計部の加地です。書類をお持ちしました」
聞き慣れた声に、天音の指が一瞬止まった。顔を上げるより先に鼓動が反応する。できるだけ平常心を装って立ち上がった。
「……ありがとうございます。こちらでお預かりします」
カウンター越しに差し出されたファイルを受け取ろうとして、ふたりの手がわずかに近づく。
触れない。なのに、距離は近い。
目が合った瞬間、幹人の眼差しに甘さが滲む。それだけで心臓が早鐘を打って収拾がつかなくなるのは、職場にいるせいだ。周りから注がれる視線が常に気になる。



