無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます

 「帰したくないって言ったの、幹人くんでしょ」

 彼が息を呑む気配が伝わる。
 それから、くすっと小さく笑って、額に軽くキスを落とされた。

 「ずるいのは、天音さんもですよ」

 再び唇が触れる。今度はたしかめ合うみたいに、ゆっくり何度も。
 耳元で名前を呼ばれるたび、背中をなぞる指先に触れるたび、いろんなことが少しずつ輪郭を失っていく。
 胸元で輝くネックレスが、ふたりの間でかすかに音を立てる。それを合図にするみたいに、幹人は天音をもう一度強く抱きしめた。

 「誕生日、おめでとう……天音さん」

 その声に包まれながら目を閉じる。
 今夜が特別な一日として記憶に残ることを、もう疑いもしなかった。
 窓の外では、夜景が変わらず瞬いている。ふたりだけの時間は静かに深まっていった。