無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます


 食事を終えてレストランを出ると、幹人はタクシーを捕まえた。

 「じつはプレゼントを用意したんだけど、アパートに忘れてきちゃって。一緒に俺の部屋に来てくれる?」

 そう言われれば、行かないわけにはいかない。
 タクシーは夜の街を滑るように走り、ほどなくして見慣れたアパートの前で止まった。エンジン音が遠ざかると、急に現実に引き戻されたような静けさが訪れる。

 「どうぞ」

 鍵を開け、幹人が先に中へ入る。
 照明をつけると、整ったワンルームにやわらかな光が満ちた。

 「お邪魔します」

 そう言いながら靴を脱いだ瞬間、視界の端で動くものがあった。

 「フレックス、こんばんは」

 ケージの中でゆっくりと体色を変えながら、カメレオンがこちらを見ている。
 初めて会った頃はどう扱っていいかわからず距離を取っていたのに、今では自然に声をかけられる自分がいる。

 「ずいぶん慣れましたね」

 幹人がくすっと笑う。