無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます

 幹人と一緒に行った初詣で、思い切ってブルー系のスカートを穿いたのがきっかけだ。彼から『そういう色も似合いますね』と言われ、少しずつ無難の枠からはみ出してきた。

 そして四月、幹人は無事、観月建設に入社した。
 同じ会社、同じ建物。それなのに、距離は以前よりも少しだけ遠くなった気がする。
 新入社員研修、配属、覚えることだらけの毎日。設計部に配属された彼は、朝から晩まで忙しい。すでに一級建築士の資格を持っている幹人は即戦力で、夜の電話ですら難しいときがある。

 総務部にいた頃のように、書類を持ってきて雑談することもない。インターンという立場だったから許されていた、あの曖昧で近い距離は、もうない。会社で顔を合わせること自体、稀だ。
 エレベーターの前、ロビーの向こう、廊下を挟んで、ふと視界に入る。見かけることもある。

 けれど幹人の周りには、同期の仲間、先輩社員、部署の人間などいつも誰かがいる。スーツに身を包み背筋を伸ばして歩く姿は、もう完全に観月建設の社員だ。

 ある日の午後、書類を届けるために営業部へ向かう途中だった。
 通路の向こうの打ち合わせスペースに、人だかりができているのが見えた。設計部の打ち合わせらしい。
 足を止めるつもりはなかったのに、聞き覚えのある声が耳に届いて、天音は思わず視線を向けた。

 「その納まりだと、現場で一度止まると思います」