幹人が卒業した。
天音はそれを、五月中旬の空気の中でゆっくり実感していた。
三月中旬、スーツ姿で照れくさそうに笑う彼を卒業式に見送った日のことは、まだはっきり覚えている。
『これでやっと天音さんの隣に堂々と立てます』
そう言った声は少しだけ硬くて、頼もしかった。いや、それ以前も――。幹人は前から、年下のくせに妙に落ち着いているところがあった。
背伸びをするわけでも、大人ぶるわけでもない。ただ、必要なときに逃げない。言葉を選びながら、ちゃんと向き合ってくる。
それが、天音の心をくすぐった。
甘えるのが上手なわけじゃないし、余裕があるタイプでもない。けれど、肝心なところでは必ず踏みとどまる。
風邪で倒れたときも、迷いながら告白した夜も、彼は自分の立場を誤魔化さなかった。
年下だから守ってあげなきゃ、なんて思わせない。むしろ、いつの間にか隣に立って同じ方向を見ている。
その事実に、あとから気づかせてくる人だ。
だから『これでやっと天音さんの隣に堂々と立てます』も背伸びではなく、彼なりの決意なのだとわかった。
そんな彼と出会ってからは、天音自身にも変化があった。それまでモノトーンやベージュばかりだった服に少しずつほかの色が混ざり、無難一辺倒ではなくなりつつある。



