無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます

 幹人はそれ以上近づかず、少し距離を保ったまま立っている。さっきまでの大胆さが嘘みたいに、耳まで赤い。

 「家まで送れてよかった」
 「うん。ありがとう」

 短いやり取りなのに、言葉の端々に名残が滲む。
 天音はバッグの持ち手をぎゅっと握り、意を決したように顔を上げた。

 「……あの」
 「はい」
 「さっきのは……嫌じゃなかったから」

 それだけ言って、また視線を落とす。
 幹人は一瞬言葉を失ったあと、ふっとやわらかく笑った。

 「それだけで今日は十分」

 そう言って、今度こそ踵を返す。

 「おやすみなさい、天音さん」
 「おやすみ、幹人くん」

 門の内側に入ってから、天音は一度だけ振り返った。
 彼はまだそこにいて、手を軽く振る。
 視線が合って、また少し照れくさくなって、天音は小さく会釈をして玄関へ向かった。
 鍵を閉め、扉にもたれかかる。

 (……心臓、うるさすぎ)

 唇に残る感触をそっと指でなぞりながら、小さく息を吐く。その夜、天音は胸に残る温度を抱えたまま眠りについた。