無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます

 視線を落とすと、幹人も同じように困った顔をしている。

 「慣れ、ですかね」
 「ね……」

 苦し紛れにそう答えると、杉村は小さく肩をすくめた。

 「もったいないわね」
 「なにがですか」
 「距離、縮めるチャンスよ」

 天音の胸が、どくんと鳴る。

 「名前で呼ばれると、否応なしに実感するものよ。あぁ、この人は特別なんだって」

 それは、実感のこもった経験者の言葉だった。
 天音はそっと幹人を見る。彼もこちらを見ていて、視線が絡む。
 逃げ場のない沈黙が舞い降りた。

 「じゃあ」

 鈴川が、にやにやしながら割って入った。

 「試しに、今ここでやってみろよ」
 「い、今?」
 「今以外に、いつやるんだ」

 完全に遊ばれている。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
 天音は小さく息を吸う。

 「加地くんからでいいんじゃない?」