無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます

 「ありがとうございます」

 少し照れながら答える幹人を横目に、天音は胸の奥が温かくなるのを感じていた。
 秘密にしているのも、迷いながら進むのも、どちらも同じだ。だからこそ、このふたりの言葉が真っすぐ心に届いた。

 「で?」

 杉村がグラスを置き、にやりと口角を上げた。

 「なんで職場を離れても、まだ名字呼びなの?」

 一瞬、空気が止まる。

 「え?」
 「えっ?」

 天音と幹人が、また同時に声を上げた。
 杉村は肘をつき、楽しそうにふたりを見比べる。

 「ここ、会社じゃないわよ? もう業務時間も終わってるし」
 「そうそう」

 鈴川も面白がるように頷いた。

 「恋人同士なんだろ? いつまで『寺崎さん』『加地くん』なんだよ」

 言葉に詰まった。
 意識してそうしていたわけじゃない。けれど、急に変えるのも気恥ずかしくて、流れに任せてきただけだ。