無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます


 時計を見ると、ちょうど正午を少し回っていた。天音は一度、パソコンから視線を離し、フロアを見渡す。
 杉村にはまだ声をかけていない。心の中で息を吸ってから立ち上がった。

 「杉村さん」

 呼びかけると、書類を確認していた杉村が顔を上げる。

 「なに?」
 「よかったら、お昼ご一緒しませんか」

 ほんの一瞬、間があってから、杉村はにっこり笑った。

 「珍しいお誘いね。いいわよ」
 「ありがとうございます」

 それだけで、胸の奥が少しだけ緩んだ気がした。

 会社近くのカフェは昼時でもほどよく静かだった。木目のテーブルが陽にあたってほのかに温まり、コーヒーの香りがゆっくりと漂うような店だ。通りのざわめきはガラス越しに遠く、店内には控えめなBGMが流れている。
 窓際の席に案内され、メニューを開いた。
 ここでランチを食べるなら、いつもはナポリタン。けれど今日はべつのメニューを選んだ。この頃、定番じゃないものを選ぶようになったのは、少なからず幹人の影響だ。

 「クラブハウスサンドでお願いします」
 「じゃあ私も同じにしようかな」