無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます


 目が覚めたとき、幹人が最初に感じたのは身体がずいぶん軽くなっていることだった。
 喉の痛みも頭の重さも引いている。まだ本調子とは言えないが、昨日までのどうしようもなさは嘘みたいだった。
 カーテンの隙間から差し込む朝の光をぼんやり眺めながら、小さく息を吐く。

 (……治ってる)

 薬が効いたのもあるだろう。でも、それだけじゃない。
 ふと、一昨日のことが脳裏に蘇る。額に触れた、天音の少し冷たい指。

 『大丈夫な人は、こんな顔しません』

 有無を言わせない声で、お粥を差し出されたこと。不器用なくらい真剣に看病してくれた背中。そして――

 (……呼んだよな、俺)

 思い出した瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
 寝入ってしまった彼女が、静かに寝息を立てていた明け方のことだ。きっと深く眠っている。そう思ったから口にしてしまった。

 『天音さん』

 呼び慣れない下の名前を。
 声に出した途端ひどく落ち着かなくて、慌てて口を閉じた。

 (聞こえてないよな……)