無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます

 堅実で評判がよくて、親も納得する相手。それはたしかに、自分が選んできた道のはずだ。なのに、そこに幹人の顔が割り込んでくるのを止められない。

 「忠告ですか?」
 「経験談」

 杉村はさらりと言って、立ち上がる。

 「ラーメン、伸びるから。続きはまた今度ね」

 会計を済ませると、杉村は軽く手を振って先に店を出ていった。
 残された天音は、湯気の向こうで冷めかけた麺を見つめる。
 安全な距離。先輩の顔。選んでいるつもりの未来。そのどれもが、少しずつ形を失いはじめている気がした。
 レンゲを手に取ると、スープをひと口飲み込む。お馴染みのはずなのに、味がよくわからなかった。