無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます

 「……少し考えごとです」

 そう答えると、杉村は缶コーヒーのプルタブに指をかけたまま、すぐには開けなかった。視線を外したまま、独り言のように言う。

 「寺崎さんが仕事中に考えごとなんて、珍しいわね。年始の挨拶のときも、少しうわの空だったし」

 軽い調子なのに言葉は逃がさない。ようやく缶を開け、静かにひと口含む。

 「仕事の内容じゃないのは、見ていればわかる」

 天音は、無意識にペットボトルを握りなおしていた。

 「そう、ですか?」

 曖昧に返すと杉村はふっと息を吐き、ほんの一瞬だけ天音の表情をたしかめるように視線を向けた。

 「誰かを思い浮かべてるときの顔してた」

 心臓が、どくんと強く鳴る。

 (そんなの、わかるの?)

 否定しようと口を開きかけて、やめた。なにを言っても見透かされている気がする。

 「そんな顔、してましたか」
 「ええ。それも年下の男の子ね」

 一瞬、空気が止まる。呼吸の仕方を忘れたみたいに、言葉が出てこない。