春野先生が、真っ赤な顔でオロオロしている。
「す、すみません……!」
「私なんかのせいで……!」
うわ。
完全に縮こまってる。
守りたい。
「先生のせいじゃない!!」
あたしは即ツッコミした。
「悪いのは脚本!!」
「ひっ」
代理人が震えた。
あ、ちょっと言い方強かったかも。
でも。
引けない。
だって、
推し作品だもん。
その時。
「では、整理しましょう」
湊《みなと》が静かに言った。
空気が変わる。
主演モード。
なんか急に頼もしい。
「春野先生」
湊が柔らかく微笑む。
「先生が一番残したいシーンって、どこですか?」
春野先生が目をぱちぱちした。
「え……」
「遠慮なしで」
低くて優しい声。
「作品を作ったのは先生だから」
その言葉に。
春野先生の目が、少しだけ潤んだ。
「……冷凍庫です」
小さな声。
「命が危ない時」
「太ってることが、初めて誰かを救う力になる」
震えながら言う。
「あかりが、自分を好きになれる瞬間なんです」
しん。
会議室が静まった。
あ。
ダメ。
泣く。
分かる。
分かるよ。
だから良かったんだよ、あの話。
湊が頷いた。
「そこ、絶対残しましょう」
主演の声。
強い。
「あと、恋愛相手」
台本を閉じる。
「変えないでほしいです」
代理人が焦る。
「お言葉ですが、スポンサーが――ね。
日本のテレビドラマのヒロインは美形って決まっているんですよ。
これお約束なんです。
あかりさんでは、失礼ですが、
ちょっと視聴率とれないのではないか……ということになり……」
「じゃあ俺、降ります」
さらっと言った。
会議室。
凍結。
「え!?」
「神宮寺さん!?」
「冗談ですよね!?」
湊、真顔。
「原作壊すくらいなら出ません」
強っ。
強すぎる。
(え、何この人)
さっきまでキラキライケメンだったのに。
急に男前。
うわあああああ、言うなあ。
代理人が青ざめた。
「わ、分かりました!」
「再検討します!」
「本部とも協議を……!」
あ。
勝った。
数分後。
会議終了。
廊下でわたしは、ふうっと息を吐いた。
「終わったぁ……」
足がふらつく。
緊張してた。
すると。
ぽん。
頭に手?
「お疲れ様」
見上げる。
湊だった。
やさしい顔。
うわあ反則だぁ。
「……頑張ってたね、佐藤あかり」
低い声。
ちょっと近い。
近い近い。
「先生、すごく嬉しそうだった」
その言葉。
なんか。
すごく嬉しかった。
「……ありがと」
ぽつりと言う。
すると。
湊が少しだけ笑った。
「いやあ、それはこっちの台詞だよ」
一瞬。
沈黙。
そして。
彼が、小さく言った。
「……ますます好きになった」
うわああああああああ――無理。
心臓がいくつあっても、もたないよぉ。



