「……え?」
あたしの声だけが響いた。
湊《みなと》も固まってる。
春野先生も固まってる。
代理人なんて、口半開き。
数秒の沈黙。
そして。
「……っ」
湊が突然、顔をそらした。
え。
待って。
今。
この国宝級イケメン。
耳。
赤くない?
「いや」
湊が咳払いした。
「違う」
違うんかーい!!
心の中で盛大にツッコんだ。
だよね。
知ってる。
分かってる。
あるわけない。
相手、神宮寺湊。
あたしは、ぽっちゃり枠。
言い換えればデブ。
人生で何回言われた?
《いい人止まり》。
《妹みたい》。
《安心する》。
恋愛対象外。
知ってる。
慣れてる。
なのに。
……ちょっとだけ期待した自分。
バカみたい。
胸が、ちくっと痛んだ。
すると。
湊が、急に立ち上がった。
「違うっていうのは」
低い声。
さっきまでと違う。
少し真面目。
「今言うつもりじゃなかったって意味」
…………。
え?
会議室。
再び停止。
「え?」
今度は代理人が言った。
「え?」
春野先生も言った。
「え?」
気づけば。
あたしまで言ってた。
湊が、小さく息を吐く。
そして。
まっすぐ。
こっちを見た。
「前から、気になってた」
え。
「原作、ちゃんと読むところ」
「スタッフに優しいところ」
「売れてるのに偉そうにしないところ」
どくん。
胸が鳴る。
「あと」
一瞬。
湊が少しだけ笑った。
「ご飯、すごく美味しそうに食べるところ」
…………。
え。
そこ?
いや。
そこなんだ。
「見てるだけで、幸せそうで」
やさしい声だった。
「なんか――一緒にいると安心する」
ドクドクドクドク
心臓がうるさいくらいにドクってる。
無理。
ちょっと待って。
なにこれ。
「でも」
あたしは慌てて言った。
「相手、あたしだよ?」
思わず笑ってごまかす。
「ぽっちゃりだし」
「かわいい女優なんて、山ほどいるし」
言いながら。
ちょっとだけ苦しくなった。
だって。
夢みたいじゃん。
そんなの。
あるわけ――。
「知ってる」
湊が、即答した。
「全部知ってる」
そして。
静かに笑う。
「その上で、好き」
――無理。
心臓が、破裂するかも。
あたし、今すぐ死ぬかも。
その時。
「すみません!!」
春野先生が突然立ち上がった。
顔真っ赤。
「すごい良い場面なんですけど、今それどころじゃないですぅぅ!!」
しーん。
全員。
我に返った。
……そうだった。
改悪問題、まだ終わってない。



