ぽっちゃりな私を好きになるなんて、国宝級イケメン俳優おかしくないですか!?


 思わず湊《みなと》を見る。

 でも、

 本人は普通の顔。

 何事もなかったみたいに座ってる。

(……聞き間違い?)

 いや。

 絶対なんか言った。

 しかも、

《好き》って聞こえた。

 え。

 誰を?

 作品?

 原作者さん?

 いや。

 まさか。

 あたし?

(ないないないない!!)

 秒速で打ち消した。

 だって相手。

 神宮寺湊。

 国宝級イケメン。

 雑誌の「付き合いたい俳優ランキング」常連。

 歩けばファンが倒れる男。



 一方、

 あたし。

 ぽっちゃり系。

 言い換えればデブ。

 バラエティでは大食い。

 ドラマではだいたい親友役。

 恋愛枠?

  なにそれ、おいしいの?

 その時。

「佐藤あかりさんの言う通りです」

 湊が静かに言った。

 会議室の空気が、ぴんと張る。

「原作の核を変えるなら、出演は考え直したい」

 …………。

 え。

 待って。

 今。

 主演降板ちらつかせた?

 代理人の顔色が変わる。

「神宮寺さん、それは……」

「冷凍庫のシーン」

 湊が台本を閉じた。

「オレ、あそこに惚れたんです」

 静かな声。

「命がけで守ってくれる人に、惹かれるのは自然でしょ?

 違いますか? 違うと思う人手を挙げてください」

 しん。

 誰も反論できない。

「それに」

 一瞬、

 湊の目が、こっちを向く。

 ほんの少しだけ。

 やさしく細くなる。

「報われない人が報われる話だから、良かったのに」

 どくん。

 胸が鳴った。

 なんだろ。

 その言い方。

 なんか。

 変。

 春野先生が、小さく口を開いた。

「あの……」

 震える声。

「本当に……いいんでしょうか」

 目が赤い。

 泣きはらした後なんだ。

「私、こういう場、初めてで……」

 うわ。

 泣きそう。

 守りたい。

 あたしは即答した。

「いいんです」

 春野先生の前に、ずいっと出る。

「だって先生の作品だもん」

 先生が目を丸くする。

「先生、冷凍庫のシーン書いたでしょ?」

 こくり。

「めちゃくちゃ泣いた」

 先生の目が揺れる。

「だから――」

 笑う。

「先生が戦えないなら、あたしが戦う」

 その瞬間。

 隣から。

 ふっ。

 って笑い声。

 見る。

 湊だった。

 なんか。

 すごい優しい顔してる。

「……ほんと」

 小さく呟く。

「そういうとこ、オレ、好きだなあ」

 …………。

 え。

 今度は。

 絶対。

 聞き間違いじゃない。

 あたし、固まった。

「……え?」

 湊が、はっとした顔をする。

「あ」

 沈黙。

 会議室。

 全員。

 停止。