楽屋が静まる。
神宮寺 湊《じんぐうじ みなと》が立っている。
白シャツ。
黒髪。
さらっとした前髪。
顔が、いい。
いや、良すぎる。
なんなの?
国宝か?
でも、そんなイケメンが、困った顔をしていた。
「オレも原作、読んだんだよね」
ぽつり、と言う。
「めちゃくちゃ面白かった」
……え。
「冷凍庫シーン、泣いたし」
え。
「俺、あそこで完全に恋に落ちる話だと思ってた」
――分かる!!!
「だよねぇぇぇ!?」
思わず立ち上がった。
「そうなの!!」
「なのに、なんなのこの脚本!!」
台本をバシバシ叩く。
「なんで命がけで助けてもらって、別の女好きになるの!?」
「お前、人の心ある!?って思った!!」
湊が、吹き出した。
笑ってる。
うわ。
笑顔が宝石級。
ずるいくらい美しい。
「……佐藤あかりさんって」
湊が少し目を細める。
「ちゃんと原作読むんだ」
「当たり前でしょ」
即答。
「推し作品だもん」
すると、湊が、一瞬だけ黙った。
「……そっか」
なんだろ、
その言い方。
少しだけ、
やさしかった。
マネージャーが、おそるおそる口を開く。
「でも……制作決定事項なので」
「変えよう」
湊が、さらっと言った。
…………。
え?
「え?」
あたしとマネージャーの声が重なる。
湊は普通の顔。
「主演が言えば、多少は動く」
いやいやいや。
多少って。
この人、主演。
影響力バケモンじゃん。
「俺、このままやりたくない」
低い声だった。
でも。
本気だ。
「原作、傷つけたくない」
どくん。
胸が鳴った。
その言葉。
なんか。
神の助けの手?
あたしだけじゃなかった。
ちゃんと、作品を大事に思ってる人がいた。
「……よし」
あたしは拳を握った。
「一緒にやろう」
湊を見た。
「推し作家を守る」
……
湊が目を丸くして。
そして――。
ふっと笑った。
「うん」
その笑顔が。
ありえないくらい、優しかった。
「一緒に戦おう、佐藤あかりさん」
――あ、フルネーム呼び。
なんか今。
ちょっと。
心臓、トトンと変なリズム刻んだ。



