ぽっちゃりな私を好きになるなんて、国宝級イケメン俳優おかしくないですか!?

 ――え。

 今。

 なんて?

『逃げても、追いかけるから』

 心臓が、どくんと鳴った。

 ダメ。

 楽屋のドアを開けたら、

 絶対、気持ちが揺らぐ。



「……今、メイク落としてる」

 とっさに嘘をついた。

 沈黙。

 数秒後。

「待つ」

 即答だった。

 え。

「……帰っていいよ?」

「いや、待つ」

 低い声。

 でも。

 妙に頑固。

「朝まででも」

 …………。

 え。

 なにその覚悟。




 やめて。

 涙があふれる。

 楽屋のドアにもたれた。

 向こう側に、

 湊《みなと》がいる。

 たぶん、

 本当に待ってる。

 バカだ。

 この人。

 主演俳優なのに。

 なのに、

 胸が、あったかくなる。

 ダメ。

 こんなの。

 好きになる。

 ――いや。

 もう。

 とっくに。

 好きだ。

 認めた瞬間。

 涙がぽたりと落ちた。




 その時。

 スマホが鳴った。

 春野先生。


「もしもし!?」

 出た瞬間。

 先生の慌てた声。

『佐藤さん!? ネット見ました!?』

「見ました。
 
 週刊誌に、撮られました。

 ごめんなさい」

 しおしおしちゃう。

『佐藤さん?! 違うんです!!』

 え?

『私……脚本、書き直しました!!

 ネットニュースになってます。

 アフーで1位』

 ……は?

『最終回!!』

 先生の声が震える。

『あかり刑事、ちゃんと幸せになるように直しました!!』

 ええええええ?!

『だって』

 春野先生が、小さく言う。

『佐藤さん見てたら……』

『幸せって、待つんじゃなくて、掴みに行くものかもって思って』

 ……え。

『だから』

 先生が笑う。

『逃げちゃダメです。

 わたしも脚本、書き直したんです!

 なかなかやるでしょ?』




 その瞬間。

 コンコン。

 ドア。

 そして。

「……あかり」

 湊の声。

 少しだけ疲れてる。

「お願いだから、ここを開けて」

 初めて。

 弱い声。

「もう、俺から逃げないで」

 胸が。

 ぎゅっと痛くなる。

 だって。

 そんなこと言われたら、

 無理。

 数秒、

 迷って、

 そして。

 ――ガチャ。

 ドアを開けた。




 そこにいた湊は、

 思ったより、

 ずっと、

 ボロボロな顔をしていた。



 湊が、少しだけ笑った。

「好きだから、俺」

 真っ直ぐだった。

 

「仕事とか」

「立場とか」

「全部考えた」

 一瞬、

 息を吐く。

「でも」

 少しだけ、

 困ったように笑う。

「やっぱり、あかりが必要」

 ――だめ。

 泣く。

「だから」

 一歩。

 近づく。

「今度は、俺に守らせて」

 そして。

 静かに言った。

「お疲れ様」

 その声。

 ドラマの決め台詞と同じなのに。

 全然違った。

「もう、ひとりで頑張らなくていいから」

 涙が、止まらなかった。