ぽっちゃりな私を好きになるなんて、国宝級イケメン俳優おかしくないですか!?

 …………。

 え。

 終わった。

 空気が、一瞬で凍った。

 湊《みなと》が、ゆっくり振り向く。

「……どんな写真?」

 静かな声。

 でも、

 ちょっと怖い。

 「ええっと、壁ドンだったでしょうか。

 その時のおふたりの様子は……。

 私が想像しますに、

 週刊誌の見出しは、

【国宝級俳優・神宮寺湊、熱愛確定!?】

【お相手は“ぽっちゃり癒し系”女優】

【撮影現場で密会】

 この中のいずれかだと思われます」




 終わった。

 人生。

 終わった。

「すみませんでした!!」

 秒で頭を下げた。

「全部あたしのせいです!!」




「違う!」

 湊が即答。

 「俺が近づいた」

「でも――!」

「俺が好きでやった」

 心臓。

 やめて。

 そういうの。

 今。


 マネージャーが顔をしかめた。

「報告しましたら、

 事務所の上司、かなり怒ってます」

 ですよねぇぇぇ!!

「特にスポンサーの反応が心配だと……」

 あ。

 ダメだ。

 頭が冷える。

 現実。

 湊は主演。

 ドラマを背負ってる。

 違約金。

 イメージ。

 全部。

 大きい。

 あたしなんかと違う。

(……だめだ)

 守らなきゃ。

 この人。

 せっかく。

 ここまで来たんだから。




 その夜。

 あたしは、ひとりで湊の事務所へ行った。

「別れたことにしてください」

 社長が目を丸くする。

「え?」

「まだ付き合ってないけど」

  いつもの明るい顔で言った。

「全部、営業だったってことにしましょ」

 胸、痛い。

 でも。

 これでいい。





 翌日。

 現場。

「おはよーございまーす!」

 元気なふり。

 完璧。

 いつもの佐藤あかり。

 でも。

 湊とは、目を合わせなかった。

「……あかり」

 呼ばれる。

 胸が痛い。

 でも。

 笑う。

スタッフが慌てて声をかけてくる。

「主演俳優さん、近いとまた撮られますよー?」

 軽く言う。

 冗談みたいに。

 でも。

 湊は笑わなかった。

「なんで」

 低い声。

「なんで勝手に決めるの」

 ……お願い。

 優しくしないで。

 泣くから。

 その時。

「スタンバイお願いしまーす!」

 助かった。

 逃げるように現場へ向かう。

 そして。

 その日の撮影は――。

 最悪だった。

 湊の演技が、刺さりすぎた。

『なんで、ひとりで頑張るんだよ』

 ドラマのセリフ。

 なのに。

 まるで。

 あたしに言ってるみたいだった。

 撮影後。

 ひとり楽屋に逃げ込んだ。

 泣くな。

 泣くな。

 その時。

 コンコン。

 ノック。

「開けて」

 湊の声だった。

 そして。

「逃げても、追いかけるから」

 ――え。