犬猿アイドル、活動中!

 ロケ当日。

「……眠い」

 乗り込んだロケ車の中で、叶斗がぐでっと僕の肩にもたれかかってきた。

「重い」
「冷た」
「朝から人に寄りかからないでくれる?」
「だって六時集合だよ? 人類には早すぎるって」
「遅刻しかけた人が言わないで」

 五分前に車に滑り込んできたくせに。

「間に合ったじゃん」
「ギリギリだったけど」
「セーフはセーフ」

 まったく反省している顔じゃない。
 すると、その様子を見ていたマネージャーさんが満足そうにうなずいた。

「うんうん、自然な感じいいね〜!」
「どこがですか」
「どこだよ」

 僕と叶斗の声がぴたりと重なる。

「はい、じゃあそのままカメラ回しまーす!」

 スタッフさんがカメラを向けた瞬間。
 叶斗が、すっと背筋を伸ばした。

「おはよ〜ございまーす! 本日は、Luminousの仲良し温泉旅でーす!」

 ……さっきまで眠そうだった人と、同一人物とは思えない。
 営業スイッチ入るの早すぎない?

「朝比奈湊です。今日は温泉街を満喫したいと思います」

 僕も営業スマイルを浮かべる。
 すると叶斗が、にこにこしながら僕の肩を組んできた。

「湊、テンション低くない?」
「朝だから」
「もっと楽しそうに〜」
「……楽しみです」
「棒読み」
「うるさい」

 スタッフさんたちが笑う。

「かなみな、朝から仲良しだね〜!」

 違います。
 そう訂正したかったけれど、カメラが回っているのでやめておいた。

***

「うわ、めっちゃ温泉街っぽい!」

 目的地に到着した叶斗が、きょろきょろと周りを見回した。
 石畳の道に、もくもく漂う湯けむり。
 昔ながらのお店が並び、甘いおまんじゅうの匂いがふわっと流れてくる。

「まずはこちら! 食べ歩きミッションでーす!」

 スタッフさんがカンペを掲げた。

『温泉街グルメを五品食べよう♡』

「余裕じゃん」

 叶斗の目がきらっと輝く。

「いや、朝から五品は多くない?」
「湊って人生損してるよな」
「なんで」
「食べ歩きでテンション上がらないなんて」

 失礼だな。

「僕だって上がるよ」
「じゃあその真顔やめな?」
「これが通常」
「通常がかたいんだよ、湊は」

 そんなことを言いながら、叶斗はさっそく近くのお店へ走っていく。

「あ、叶斗! 待って!」

 僕もあわてて追いかけた。

「これうまそー!」

 叶斗が、串に刺さった温泉まんじゅうを掲げる。

「……串に刺さってる意味ある?」
「映え」
「便利な言葉だな」

 叶斗は食レポもそこそこに、あっという間に温泉まんじゅうを食べ終えた。
 僕もまんじゅうにかぶりつく。
 ……が。
 なにやら視線を感じる。

「……なに」
「一口ちょうだい」
「やだよ」
「えー、一口くらいよくない?」
「今まったく同じまんじゅう食べてたじゃん」
「人のってうまそうに見えるじゃん」
「知らないよ」

 次の瞬間。
 ぱくっ。

「……は?」

 叶斗が、僕のまんじゅうを勝手に食べた。

「甘っ! うま!」
「なんで人の食べるの!?」
「一口だけじゃん」
「許可もらってからにして!」
「減るもんじゃないし」
「減ってる!」

 僕が思わず声を上げると、近くのスタッフさんが吹き出した。

「かなみな、ほんと仲いいね〜!」
「「どこが!?」」

 また声がそろった。