犬猿アイドル、活動中!

「ちなみにロケは明後日です!」
「急だな!?」
「僕、まだ心の準備できてないんだけど」
「大丈夫大丈夫! 台本もあるし!」

 マネージャーさんが配った資料を、僕はぱらぱらとめくる。

『かなみなの仲良しバディ旅♡ in 温泉街』

 ……やっぱりタイトルからして不穏だ。

「まずはこちらのミッションを見てね〜!」

 嫌な予感しかしない。
 僕と叶斗は顔をしかめながら、同時に資料をのぞき込んだ。

『ミッション① 食べ歩きグルメを五品制覇せよ♡』

「まあ、これは普通だな」
「叶斗が食べすぎなければね」
「失礼だな! 俺をなんだと思ってる?」
「食欲で動く人」
「否定できない」
「否定できないんかい」

『ミッション② 仲良しツーショットを十枚撮影♡』

「無理」
「無理だな」
「ていうか十枚って多くない?」
「ファンのみんなが喜ぶから!」

 マネージャーさんがキラキラした笑顔で返す。
 ファンのみんな、そんなに見たいんだ……。

『ミッション③ おそろいのおみやげを交換♡』

「最悪」
「地味に一番キツい」

 僕たちはそろって顔をしかめた。

「えー? 楽しそうじゃない」
「どこがですか」
「どこだよ」

 また声が重なる。
 すると、叶斗が資料の下を見て「あ」と声を漏らした。

「なに」
「最後のミッション」

 嫌な予感がさらに強くなる。
 叶斗が、すっと資料を僕に向けた。

『ミッション④ 温泉街フェスに出演せよ♡』

「…………」
「…………」

 沈黙。

「いや待って」
「聞いてないんだけど」

 僕と叶斗は同時に資料を見返した。

「え、なにこれ。“スペシャルライブ出演予定”って」
「しかも生配信ありじゃん」
「最悪」

 僕が頭を抱える横で、マネージャーさんだけが楽しそうに拍手した。

「いいじゃない! 温泉街フェス、すっごく盛り上がるわよ〜!」
「僕ら、ただの旅ロケだと思ってたんですけど」
「俺、浴衣でのんびり饅頭食う仕事だと思ってた」
「そんな仕事ないでしょ」
「夢くらい見させて」

 もっと真剣に仕事に向き合ってほしい。

「旅やフェスを通して、もっと2人の仲も深めてほしいのよ!」
「深められる気がしないんだけど」
「むしろ距離ほしいくらい」
「わかる」

 また意見が一致した。
 なんなんだろう、この無駄な息の合い方。

「ということで!」

 マネージャーさんは、ぱんっと手を叩く。

「明後日朝六時、東京駅集合ね!」
「六時!?」
「早すぎるだろ!」

 マネージャーさんは、にっこり笑った。

「仲良く遅刻しないで来てね♡」

 ……絶対、波乱しか起きない気がする。