犬猿アイドル、活動中!

「ライブ、お疲れさま! すごく良かったわよ!」

 ライブ終演後の楽屋で、マネージャーさんがぱんっと手を叩いた。

「ライブ大成功! さすがLuminous(ルミナス)だね〜!」
「ありがとうございます」

 僕がぺこりと頭を下げる横で、叶斗はスポーツドリンクのキャップを開けながら、「おつかれさまでーす」と軽く手を振っている。
 相変わらず緊張感がない。

「で、そんな大活躍のふたりに、うれしいお知らせがありまーす!」

 マネージャーさんが妙に明るい声を出した。
 ……嫌な予感しかしない。
 叶斗も同じことを思ったらしく、スポーツドリンクを飲む手がぴたりと止まる。

「……うれしいお知らせって、ろくなことないよな」
「珍しく意見が合った」
「嬉しくない一致だな」
「それはそう」

 僕たちがひそひそ言い合っていると、マネージャーさんは満面の笑みで一枚の企画書を掲げた。

「こちら!」

 ばーん!
 効果音が聞こえてきそうな勢いで見せられた紙には、大きくこう書かれていた。

『かなみなの仲良しバディ旅♡ in 温泉街』

「…………」
「…………」

 沈黙。
 数秒後。

「「え?」」

 僕と叶斗の声が、ぴたりと重なった。

「次回の配信企画だよ〜! ファンのみんなから、“かなみなの自然体がもっと見たい!”って声がすっごく多くてね!」

 自然体。
 その単語に、僕はじっと企画書を見つめた。
 僕たちの自然体なんて見たら、ファンの子たちびっくりすると思う。

「だから今回は、リフレッシュがてら、ふたりで温泉街をめぐってもらいます!」
「ふたりで?」

 僕は思わず聞き返した。

「うん!」
「スタッフさんは?」
「もちろん同行するけど、基本はふたり行動!」

 にこっ。
 マネージャーさんが爽やかに言い切る。
 爽やかに言う内容じゃない。

「待ってください」

 僕は冷静に片手を上げた。

「確認なんですけど、僕たちって温泉街で何をするんですか?」

「食べ歩きしたり、温泉に入ったり、仲良しツーショット撮ったり!」
「始まってないのに、もう帰りたい」
「だめでーす」

 即答だった。
 横を見ると、叶斗が企画書をのぞき込んでいる。

「え、なにこれ。ミッションあり?」
「うん! 全部クリアできたらご褒美もあるよ!」
「いやいや。ご褒美いらないから、こいつと離れられる休日がほしい」

 お。
 珍しくまともな意見。

「だよね?」

 僕が思わず同意すると、叶斗が顔を上げた。

「湊と温泉街とか、絶対ずっと小言聞かされるじゃん」
「人をクレーマーみたいに言わないでくれる?」
「『靴そろえて』『ちゃんと戸閉めて』とか言いそう」
「言うけど」
「ほらもう無理」

 叶斗がわざとらしくため息をつく。

「叶斗と温泉とか、絶対リフレッシュできない」
「俺だって絶対行きたくない」
「僕も行きたくない」
「じゃあ断ろう」
「断れるなら、とっくに断ってるって」

 僕たちは同時にマネージャーさんを見た。
 にこっ。
 完璧な笑顔。
 なのに、断れる空気がまったくない。
 この敏腕マネージャーさんのおかげで、今の僕たちの仕事がある。
 それに――マネージャーさん、怒るとすっごく怖い。

「……無理そうだな」
「無理だね」

 意外にも、一瞬で結論が出た。

「よかった〜! じゃあ決まりね!」

 マネージャーさんが満足そうにうなずく。
 僕と叶斗は、そろって深いため息をついた。