レンズ越しの犯罪者

末山愛斗、35歳。
彼は10年前、一人の人間を殺めた。その罪は今も暴かれることなく、彼の中に沈んでいる。
そんな愛斗が身を寄せているのは、古くからの知り合いであり、恋人でもある唐山ふみのもとだった。
ふみは、愛斗が背負っている血塗られた過去をすべて知っている。それでもなお、彼女は愛斗を愛し、匿い続けていた。
ある日のこと。二人が過去の事件について言葉を交わしていると、中華料理店で働く茂山幸輝――通称「もっちゃん」に、その会話を聞かれてしまった。
「今の話……本当なんですか」
幸輝の顔は蒼白だった。
「もっちゃん、待って」
「……警察に話します。これ以上は黙っていられない」
幸輝が踵を返そうとしたその時、ふみの父・貞夫が立ちはだかった。貞夫は冷徹な眼差しで幸輝を脅しつけ、無理やりその場を収めさせた。
怯えきった幸輝は、逃げるように帰っていった。
「ありがとう、ふみ。助かったよ」
愛斗が安堵の息を漏らすと、ふみは慈しむような笑みを浮かべた。
「いいの。すべてはあなたのためよ」
二人は静かに唇を重ねた。愛斗を守るためなら、ふみはどんなことでもするつもりだった。
その後、ふみは幸輝が働く中華食堂へと向かった。
皿うどんを注文し、何事もなかったかのように完食すると、彼女は目の前に立つ幸輝を見上げた。
「で? 頼んだことはやってくれたの?」
「……やっぱり僕にはできません。ごめんなさい」
幸輝の声は震えていた。ふみは「そう」とだけ短く答えると、艶然と笑いながら立ち上がり、幸輝の目の前へと回った。
彼女は容赦のない手つきで幸輝のズボンと下着を引き下ろした。
「ふみさん、何を……っ!?」
困惑する幸輝を無視し、ふみは持参したゴム手袋をはめた。
直接肌に触れることさえ拒絶するように。
彼女の手が幸輝の体を弄び、無理やり情欲を煽り立てる。
抵抗していた幸輝だったが、抗えぬ快楽に突き動かされ、ついにそのまま果ててしまった。
熱を帯びた幸輝は、ふみの体を抱き寄せ、縋るようにキスをした。
しかし次の瞬間、ふみは冷酷な力で彼を押し倒した。
「…汚らわしい。キモいんだよ」
ふみは床に唾を吐き捨て、幸輝の頬を強く叩いた。
「そんな……好きなのに、どうしてそんな言い方をするんですか」
「あなたに興味なんてない。不潔だからやめて。私の視界に入らないで」
「じゃあ、なんであんなことを……」
幸輝が絶望に満ちた声を上げると、ふみは冷え切った笑みを浮かべてスマートフォンを突きつけた。
画面には、先ほどの一部始終が収められている。
「愛斗くんのためよ。……言う通りにしてくれるよね? じゃないと、この動画をエロサイトに投稿するけど、いいの?」
「やめてください……」
「じゃあ、私が頼んだこと、やってくれる?」
「……はい」
ふみは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう」
帰宅したふみは、待っていた愛斗に愛おしげなキスをした。愛斗は彼女を抱き上げ、ベッドへと誘った。
衣類を脱ぎ捨て、裸になったふみは、愛斗の下半身に跪いた。幸輝の時とは全く違う、情熱を込めた手つきで彼を愛撫する。
「あっ、行く……っ!」
愛斗が絶頂を迎えると、ふみは彼の精液を自らの口に含み、それを愛斗自身の身体に這わせるようにして、ゆっくりと彼を受け入れた。
重なり合う二人の喘ぎ声が部屋に響く。
一時間に及ぶ情事のあと、ふみは愛斗の腕の中に収まり、その胸に触れながら、先ほど幸輝にしたことを淡々と話し始めた。
「ふみ……そいつ、本当にキモいな」
愛斗が呆れたように言うと、ふみは満足そうに目を細めた。
「そうよ。あんなことしたのも、全部あなたのため。素手で触るのも嫌だったから、手袋をしたの。あいつ、情けないことにすぐ果てちゃったわ」
愛斗はふみの頬を撫で、吐息を漏らした。
「ふみは……本当の悪女だな」
「ふふ、ありがとう」
ふみは幸せそうに笑い、愛斗の腕の中に深く沈み込んだ。
その笑顔の裏には、愛する男を守るためなら世界を敵に回しても構わないという、歪んだ覚悟が潜んでいた。