弥生は湯気の立つコーヒーカップを両手で包み込むように持ち、震える声で語り始めた。吾郎から愛斗への悪口を聞きたくなくて、自分が盾になるように言い返したこと、そのせいで逆上した彼に殴られ、蹴られ、外に放り出されるまでの一部始終を、涙ながらに打ち明けた。
話し終わると、愛斗は苦しそうに眉根を寄せ、自分を責めるように頭を下げた。
「……俺のせいだ。俺がいなければ、弥生さんがこんな目に遭うこともなかった。本当に、ごめんなさい」
すると弥生はすぐに首を横に振り、愛斗の手をそっと握りしめた。
「違うの。愛斗くんは何も悪くないよ。悪いのは、私の言葉に耳を貸さないあの人の方なんだから」
「……ありがとう」
愛斗はその手を強く握り返し、真っ直ぐな瞳で弥生を見つめた。今度こそ自分の想いを全部伝えるんだ、と心に決めたように、ゆっくりと、だけどはっきりと言葉を紡ぎ出した。
「俺、ずっと言いたかったことがあるんだ。……弥生さんは、あの人が言うような『キモイ年食った女』なんかじゃない。俺のことを好きだって言ってくれて、本当に嬉しかった。年なんて、俺には全然関係ないんだ。俺は弥生さんが好きなんだ」
愛斗は少しだけ照れたように笑い、続けた。
「実は……俺、弥生さんに一目見たときから、もう惚れてたんだ。最初は結婚してるって知って、『この恋は諦めなきゃ』って何度も思った。あの人が俺のことも、相撲が好きなこともバカにしてきたとき、悔しくてどうしようもなかったとき……弥生さんだけが俺の味方になってくれただろ? 『諦めなきゃ』って思えば思うほど、好きな気持ちがどんどん大きくなって、離れなくなっちゃったんだ」
「だから、弥生さんが俺を好きだって言ってくれたとき、俺、飛び上がるくらい嬉しかった。でも同時に不安だった。いつか弥生さんが、俺のもとから離れていくんじゃないかって……。だけど今日、あの旦那さんのことを知って、はっきり思い知ったんだ。
『あんな男に弥生さんを大事になんてできない。だったら俺がもらう』って。俺なら絶対に弥生さんを大事にする。俺がずっと側にいて、幸せにするから。……もう二度と、こんな風に泣かせたりしないよ」
愛斗の言葉一つ一つが、弥生の心の奥深くにまっすぐ届いた。堰を切ったようにまた涙が溢れ出す。
「……ありがとう。旦那なんて、もういらない。私はただ、愛斗くんだけの彼女になりたい。こんなにも私のことを想ってくれて……本当に、ありがとう」
「うん」
二人は何度も口づけを交わし、互いの温もりを確かめ合った。
それから少し落ち着いてコーヒーを飲もうとしたとき、弥生のお腹が小さく、だけどはっきりと鳴った。
「……」
二人は顔を見合わせ、思わず笑い出す。愛斗は立ち上がって冷蔵庫を開けてみたが、中はほとんど空っぽだった。残っていたのは、買い置きしてあった即席ラーメンが二つだけ。
「仕方ない、これで勘弁してな」
愛斗は手際よくお湯を沸かしてラーメンを作り、それからコンビニで買っておいた「からあげくん」を電子レンジで温めた。出来上がると、ラーメンも唐揚げも、半分ずつに分けて弥生の前に置く。
「はい、どうぞ。ラーメン、美味しい?」
弥生はフーフーと息を吹きかけ、麺を一口すすった。目を細めて、心の底から幸せそうな笑顔になる。
「……ほんとうに、美味しい」
「それなら良かった」
「私、こんなに美味しいラーメン、初めて食べた……」
愛斗は箸を止めて、驚いて弥生を見た。
「え? ラーメン、食べたことなかったの?」
「うん、ないよ」と弥生は小さく頷いた。「今までずっと、家ではあの人の好きなものばかり作ってきたから……私が何を食べたいかなんて、考えたこともなかったの」
愛斗はカチャリと箸をテーブルに置き、悲しさと怒りが混ざったため息をついた。
「……そんなに、自分のことよりも旦那さんのことを考えて、尽くしてきたのに。なんであいつは、お前みたいないい人を大事にできねんだよ……」
話し終わると、愛斗は苦しそうに眉根を寄せ、自分を責めるように頭を下げた。
「……俺のせいだ。俺がいなければ、弥生さんがこんな目に遭うこともなかった。本当に、ごめんなさい」
すると弥生はすぐに首を横に振り、愛斗の手をそっと握りしめた。
「違うの。愛斗くんは何も悪くないよ。悪いのは、私の言葉に耳を貸さないあの人の方なんだから」
「……ありがとう」
愛斗はその手を強く握り返し、真っ直ぐな瞳で弥生を見つめた。今度こそ自分の想いを全部伝えるんだ、と心に決めたように、ゆっくりと、だけどはっきりと言葉を紡ぎ出した。
「俺、ずっと言いたかったことがあるんだ。……弥生さんは、あの人が言うような『キモイ年食った女』なんかじゃない。俺のことを好きだって言ってくれて、本当に嬉しかった。年なんて、俺には全然関係ないんだ。俺は弥生さんが好きなんだ」
愛斗は少しだけ照れたように笑い、続けた。
「実は……俺、弥生さんに一目見たときから、もう惚れてたんだ。最初は結婚してるって知って、『この恋は諦めなきゃ』って何度も思った。あの人が俺のことも、相撲が好きなこともバカにしてきたとき、悔しくてどうしようもなかったとき……弥生さんだけが俺の味方になってくれただろ? 『諦めなきゃ』って思えば思うほど、好きな気持ちがどんどん大きくなって、離れなくなっちゃったんだ」
「だから、弥生さんが俺を好きだって言ってくれたとき、俺、飛び上がるくらい嬉しかった。でも同時に不安だった。いつか弥生さんが、俺のもとから離れていくんじゃないかって……。だけど今日、あの旦那さんのことを知って、はっきり思い知ったんだ。
『あんな男に弥生さんを大事になんてできない。だったら俺がもらう』って。俺なら絶対に弥生さんを大事にする。俺がずっと側にいて、幸せにするから。……もう二度と、こんな風に泣かせたりしないよ」
愛斗の言葉一つ一つが、弥生の心の奥深くにまっすぐ届いた。堰を切ったようにまた涙が溢れ出す。
「……ありがとう。旦那なんて、もういらない。私はただ、愛斗くんだけの彼女になりたい。こんなにも私のことを想ってくれて……本当に、ありがとう」
「うん」
二人は何度も口づけを交わし、互いの温もりを確かめ合った。
それから少し落ち着いてコーヒーを飲もうとしたとき、弥生のお腹が小さく、だけどはっきりと鳴った。
「……」
二人は顔を見合わせ、思わず笑い出す。愛斗は立ち上がって冷蔵庫を開けてみたが、中はほとんど空っぽだった。残っていたのは、買い置きしてあった即席ラーメンが二つだけ。
「仕方ない、これで勘弁してな」
愛斗は手際よくお湯を沸かしてラーメンを作り、それからコンビニで買っておいた「からあげくん」を電子レンジで温めた。出来上がると、ラーメンも唐揚げも、半分ずつに分けて弥生の前に置く。
「はい、どうぞ。ラーメン、美味しい?」
弥生はフーフーと息を吹きかけ、麺を一口すすった。目を細めて、心の底から幸せそうな笑顔になる。
「……ほんとうに、美味しい」
「それなら良かった」
「私、こんなに美味しいラーメン、初めて食べた……」
愛斗は箸を止めて、驚いて弥生を見た。
「え? ラーメン、食べたことなかったの?」
「うん、ないよ」と弥生は小さく頷いた。「今までずっと、家ではあの人の好きなものばかり作ってきたから……私が何を食べたいかなんて、考えたこともなかったの」
愛斗はカチャリと箸をテーブルに置き、悲しさと怒りが混ざったため息をついた。
「……そんなに、自分のことよりも旦那さんのことを考えて、尽くしてきたのに。なんであいつは、お前みたいないい人を大事にできねんだよ……」

