「バナナの皮は滑りやすいよね」
と、突然ゆうなが言った。
「え……」
ゆうなとは別に仲良くもなんともない。
呼び捨てするくらいだからそこそこ親しいんじゃないの? って思われちゃう? でも、呼び捨てするから親しいってわけじゃないよね。
私たちはただ『私たちは親しい仲です』って暗号を送り合ってるだけ。
呼び捨てにする=親しい
一緒に帰る=親しい
お誕生日おめでとうってLINEする=親しい
ただ、みんな孤独だって認めたくないだけ。
孤独じゃないって暗号を送れば、孤独じゃないってことになるからね。
ゆうなはいわゆる良い子。
友達もいっぱいいて、みんなと本当に仲良さそう。
きっと、私みたいに『ゆうなとは親しいふりしてる』とか思ってないだろうな。
多分、私のことはたくさんいる中距離の友達の一人と思ってて、そう言うふうに振るまってると思う。だって、ゆうなは私のことそんなに好きそうな態度は取らない。
彼女はきっと私みたいな記号を送って親しいふりしたりしないと思う。
彼女はたぶん、本当にいいこ。
「バナナの皮は滑りやすい?」
「うん、ほら、あそこ。バナナの皮が落ちてる」
確かに落ちてる。前方15メートル。歩道の真ん中。
今は7月で暑いから、バナナの皮は痛んで真っ黒になってる。
「誰か踏んだら、怪我しちゃうかも」ゆうなは本気で心配そうにしてる。
「……ねえ、バナナの皮って、本当に踏んだら滑るのかな?」
「え?だって、バナナの皮って踏んだら転ぶんでしょう?」
真剣な様子でバナナを見下ろすゆうなは、この皮を拾おうかどうか本気で悩んでるみたいだった。
私はスタスタ先へ行く。
「そんな人見たことないよ。ゆうなは見たことあるの?」
「……ない」
「ゆうなって結構面白いね。
結構テキトーだ」
重ねて言うと、ゆうなはちょっと面白そうだった。
「確かに、バナナを踏んだら転ぶって根拠なく信じてたよ」
「都市伝説レベルの情報だね」
ゆうなと何センチか仲良くなった気がした。



