She walks in the Garden〜人魚ハミシエは歓びの庭を歩み

 水音だけが耳を圧し、真っ暗な世界が男の五感を支配する。そして、服が水気を含んで重くなっていく。

(………ああ、ここで私は死ぬのか)

 何も見えていない両眼から激痛が走り、気を失っていきそうになる。

 だが、それは、許されないことだ。自分は必ず、生きて、帰らなければならない。何が何でもだ。それだというのに、身体が深く、深くへと沈んでいく。

 そんな、沈みゆく自分の腕を、ふわりと誰かが掴む。水の中にいるはずが、明確に声が響く。

「愛しているわ」

 伸びてきたもう片方の手が、自分の頬に触れる。そして柔らかく、熱く、そして優しい唇が、自分の唇に宛がわれる。新鮮な空気が口腔を通って身体中を満たし、自分の腕を掴んだ『女』が水の中で囁いた。

「私は、あなたと、永遠に、歓びの庭を共にするって、決めているの」

 途端に、男の胸の奥に大切にしまってあった『何か』が白く、淡い光を放ちだした。