空はまだ明るいのに、
風だけ少し涼しい。
グラウンドの向こう。
大きな入道雲。
もう夏みたいな空だった。
「で?」
隣から、
落ち着いた声。
「どこ走るの」
空くん。
自前のジャージ姿。
思ったより、
かっこいいのがムカつく。
足長。
いや。
小さいけど。
バランスいい。
……なんか悔しい。
「星野?」
「あ、はい!!」
やば。
見てた。
「ぼーっとしてんな」
「してないし!」
私は慌てて咳払いした。
「えっとね!
校舎の周り!」
「グラウンドじゃないんだ」
「景色変わるほうが好き」
「贅沢者」
「一周ね!」
「短くない?」
「え?」
「勝負だろ」
……確かに。
「じゃあ、
三周!!」
「増えすぎ」
決まってる空くんとは対照的に、私が着てるのは学校の体操服。
……ジャージ、
買いに行こう。
肩まで伸びた髪を結ぶ私に、
空くんが言う。
「負けたら、
ジュース」
……え。
覚えてたんだ。
ニヤつく顔も隠さず答えた。
「望むところ!!」
◇
スタートラインは、
駐輪場の端。
空くんは、
少し離れて立った。
風が吹く。
アスファルトの匂い。
遠くから聞こえる、
部活の声。
「空くん」
「……なに」
「私たち青春してる」
「あほ」
スタートの合図もなく。
突然、
空くんが走り出した。
「あー!ずる!!
待てこの――あてっ」
ジャージを引っ掴んだら、
軽くこづかれた。
気を取り直して、
走り出す。
走るのは好き。
風の音も。
アスファルトを蹴る、
シューズの音も。
心地いい。
そして今日は。
隣に、
空くんがいる。
……それにしても。
速っ。
ぐんぐんペースを上げる空くんに、私は離れないよう必死でくらいつく。
すると。
空くんが、
ちらっとこっちを見た。
一瞬。
目を丸くしたみたいだった。
「やるね」
息ひとつ乱れてない声で、
空くんが小さく呟く。
「でしょ!!!」
「うるさ。
走りながら喋んな」
「空くんこそ!」
「喋ってない」
「今喋った!」
ふっ。
空くんが笑う。
走りながら。
その顔が、
なんかずるかった。
◇
二周目。
空は、
少し赤くなり始めていた。
入道雲の端っこが、
夕日に染まってる。
風。
汗。
息。
全部ぐちゃぐちゃなのに。
なんか。
笑ってしまう。
「はっ……
待って……
しんど……」
「無理するから」
空くん、
普通に走ってる。
なんなのこの人。
「だから……
一周って言ったのにー……」
すると。
空くんが、
少しだけ速度を落とした。
「……ほら」
「え?」
「合わせる」
一歩先を走っていた空くんが、
私の隣に並ぶ。
小さい。
でも、
歩幅は大きい。
意地悪。
優しい。
変な感じ。
まだ出会って少しなのに。
「空くん」
「なに」
「また走ろうよ」
空くんは黙る。
そして。
前を向いたまま言った。
「……気が向いたら」
◇ 空 side ◇
……速い。
正直、
びっくりした。
うるさいし。
落ち着きないし。
絶対、
体力ないと思ってた。
なのに。
ちゃんと速い。
負けず嫌い。
真っ直ぐ。
笑いながら走るやつ、
初めて見た。
気づけば。
ペースを、
合わせてた。
勝負だったはずなのに。
……まあいい。
別に。
校舎裏の坂道。
“とんだ青春やってる”と、
ヘトヘトの星野を見て。
……まあ。
また付き合ってやってもいい。
気が向いたら。
風だけ少し涼しい。
グラウンドの向こう。
大きな入道雲。
もう夏みたいな空だった。
「で?」
隣から、
落ち着いた声。
「どこ走るの」
空くん。
自前のジャージ姿。
思ったより、
かっこいいのがムカつく。
足長。
いや。
小さいけど。
バランスいい。
……なんか悔しい。
「星野?」
「あ、はい!!」
やば。
見てた。
「ぼーっとしてんな」
「してないし!」
私は慌てて咳払いした。
「えっとね!
校舎の周り!」
「グラウンドじゃないんだ」
「景色変わるほうが好き」
「贅沢者」
「一周ね!」
「短くない?」
「え?」
「勝負だろ」
……確かに。
「じゃあ、
三周!!」
「増えすぎ」
決まってる空くんとは対照的に、私が着てるのは学校の体操服。
……ジャージ、
買いに行こう。
肩まで伸びた髪を結ぶ私に、
空くんが言う。
「負けたら、
ジュース」
……え。
覚えてたんだ。
ニヤつく顔も隠さず答えた。
「望むところ!!」
◇
スタートラインは、
駐輪場の端。
空くんは、
少し離れて立った。
風が吹く。
アスファルトの匂い。
遠くから聞こえる、
部活の声。
「空くん」
「……なに」
「私たち青春してる」
「あほ」
スタートの合図もなく。
突然、
空くんが走り出した。
「あー!ずる!!
待てこの――あてっ」
ジャージを引っ掴んだら、
軽くこづかれた。
気を取り直して、
走り出す。
走るのは好き。
風の音も。
アスファルトを蹴る、
シューズの音も。
心地いい。
そして今日は。
隣に、
空くんがいる。
……それにしても。
速っ。
ぐんぐんペースを上げる空くんに、私は離れないよう必死でくらいつく。
すると。
空くんが、
ちらっとこっちを見た。
一瞬。
目を丸くしたみたいだった。
「やるね」
息ひとつ乱れてない声で、
空くんが小さく呟く。
「でしょ!!!」
「うるさ。
走りながら喋んな」
「空くんこそ!」
「喋ってない」
「今喋った!」
ふっ。
空くんが笑う。
走りながら。
その顔が、
なんかずるかった。
◇
二周目。
空は、
少し赤くなり始めていた。
入道雲の端っこが、
夕日に染まってる。
風。
汗。
息。
全部ぐちゃぐちゃなのに。
なんか。
笑ってしまう。
「はっ……
待って……
しんど……」
「無理するから」
空くん、
普通に走ってる。
なんなのこの人。
「だから……
一周って言ったのにー……」
すると。
空くんが、
少しだけ速度を落とした。
「……ほら」
「え?」
「合わせる」
一歩先を走っていた空くんが、
私の隣に並ぶ。
小さい。
でも、
歩幅は大きい。
意地悪。
優しい。
変な感じ。
まだ出会って少しなのに。
「空くん」
「なに」
「また走ろうよ」
空くんは黙る。
そして。
前を向いたまま言った。
「……気が向いたら」
◇ 空 side ◇
……速い。
正直、
びっくりした。
うるさいし。
落ち着きないし。
絶対、
体力ないと思ってた。
なのに。
ちゃんと速い。
負けず嫌い。
真っ直ぐ。
笑いながら走るやつ、
初めて見た。
気づけば。
ペースを、
合わせてた。
勝負だったはずなのに。
……まあいい。
別に。
校舎裏の坂道。
“とんだ青春やってる”と、
ヘトヘトの星野を見て。
……まあ。
また付き合ってやってもいい。
気が向いたら。


