春。
図書館の窓から、
やわらかい風が入ってくる。
私は返却された本を棚へ戻しながら、
何度も時計を見ていた。
今日。
空くんが帰ってくる。
本当に。
ちゃんと。
この街へ。
◇
閉館のチャイムが鳴った時、
私は反射みたいに立ち上がっていた。
「すみません!
お先します!!」
先輩司書さんが、
笑いながら手を振る。
私は鞄を掴んで、
図書館を飛び出した。
◇
夕方。
春の風。
駅までの道。
私は走る。
息が上がる。
でも、
止まれない。
昔みたいだ。
放課後。
夕焼け。
隣を走ってた頃みたい。
その時。
駅前の横断歩道。
向こう側に、
見慣れた人影が見えた。
白いシャツ。
長いまつ毛。
少しクセのある髪。
……空くん。
空くんも、
こっちへ走ってきてる。
笑ってしまう。
「空くん!!」
大きく手を振る私に、
空くんは、小さく笑う。
信号が変わる。
私たちはそのまま、
駅前で立ち止まった。
息、
上がってる。
「……走んな」
空くんが、
息を整えながら言う。
「空くんもじゃん!」
春の風が吹く。
夕焼け。
並ぶ影。
私は息を吐いて、
小さく笑った。
「おかえり」
その瞬間。
空くんが、
少しだけ目を細める。
「ただいま」
◇
並んで歩く。
春の風。
隣の歩幅。
昔みたいなのに。
繋いだ手だけが、
あの頃と違っていた。
私はふと空くんを見る。
「……空くん、
背伸びたよね」
空くんは、
少しだけ眉を寄せる。
「お前も」
「たしかに」
私は笑った。
中学生の頃。
首が痛くなるくらい、
周りを見上げてた。
でも。
空くんの背が伸びたぶん、
私の背も少し伸びた。
私たちの目線の距離は、
あの頃のままだった。
「私、
小さいままのほうがよかった?」
苦笑いする私を見て、
空くんが、
ふっと笑う。
「……ちょうどいい」
「え?」
空くんは、
まっすぐ私を見る。
そして。
「近いから」
そう呟いて。
空くんの顔が、
ゆっくり近づく。
私は一気に固まる。
でも。
空くんは、
寸前で止まった。
数秒の沈黙。
そして。
ふっ。
空くんが下を向いて笑う。
「……顔、まっっ赤」
「っっっ!!!」
私は一気に空くんを押す。
「な、なにしてんの!?」
「別に」
「別にじゃないし!!」
私は真っ赤なまま俯く。
「……期待したのに。」
空くんが止まる。
そして。
もう一度近づいてくる顔。
今度こそ、
と目を閉じる私。
その時。
耳元に、
低い声。
「……気が向いたら」
「っ……ずるい」
ムカつく背中に、
私はぎゅっと抱きついた。
空くんは、
また笑ってる。
意地悪な悪魔の、
笑い声。
夕焼け。
並ぶ影。
私たちは、
また並んで歩き出す。
春の風が、
静かに背中を押していた。
完
図書館の窓から、
やわらかい風が入ってくる。
私は返却された本を棚へ戻しながら、
何度も時計を見ていた。
今日。
空くんが帰ってくる。
本当に。
ちゃんと。
この街へ。
◇
閉館のチャイムが鳴った時、
私は反射みたいに立ち上がっていた。
「すみません!
お先します!!」
先輩司書さんが、
笑いながら手を振る。
私は鞄を掴んで、
図書館を飛び出した。
◇
夕方。
春の風。
駅までの道。
私は走る。
息が上がる。
でも、
止まれない。
昔みたいだ。
放課後。
夕焼け。
隣を走ってた頃みたい。
その時。
駅前の横断歩道。
向こう側に、
見慣れた人影が見えた。
白いシャツ。
長いまつ毛。
少しクセのある髪。
……空くん。
空くんも、
こっちへ走ってきてる。
笑ってしまう。
「空くん!!」
大きく手を振る私に、
空くんは、小さく笑う。
信号が変わる。
私たちはそのまま、
駅前で立ち止まった。
息、
上がってる。
「……走んな」
空くんが、
息を整えながら言う。
「空くんもじゃん!」
春の風が吹く。
夕焼け。
並ぶ影。
私は息を吐いて、
小さく笑った。
「おかえり」
その瞬間。
空くんが、
少しだけ目を細める。
「ただいま」
◇
並んで歩く。
春の風。
隣の歩幅。
昔みたいなのに。
繋いだ手だけが、
あの頃と違っていた。
私はふと空くんを見る。
「……空くん、
背伸びたよね」
空くんは、
少しだけ眉を寄せる。
「お前も」
「たしかに」
私は笑った。
中学生の頃。
首が痛くなるくらい、
周りを見上げてた。
でも。
空くんの背が伸びたぶん、
私の背も少し伸びた。
私たちの目線の距離は、
あの頃のままだった。
「私、
小さいままのほうがよかった?」
苦笑いする私を見て、
空くんが、
ふっと笑う。
「……ちょうどいい」
「え?」
空くんは、
まっすぐ私を見る。
そして。
「近いから」
そう呟いて。
空くんの顔が、
ゆっくり近づく。
私は一気に固まる。
でも。
空くんは、
寸前で止まった。
数秒の沈黙。
そして。
ふっ。
空くんが下を向いて笑う。
「……顔、まっっ赤」
「っっっ!!!」
私は一気に空くんを押す。
「な、なにしてんの!?」
「別に」
「別にじゃないし!!」
私は真っ赤なまま俯く。
「……期待したのに。」
空くんが止まる。
そして。
もう一度近づいてくる顔。
今度こそ、
と目を閉じる私。
その時。
耳元に、
低い声。
「……気が向いたら」
「っ……ずるい」
ムカつく背中に、
私はぎゅっと抱きついた。
空くんは、
また笑ってる。
意地悪な悪魔の、
笑い声。
夕焼け。
並ぶ影。
私たちは、
また並んで歩き出す。
春の風が、
静かに背中を押していた。
完


