繋いだ手は、
結局最後までそのままだった。
空くんの手は、
あったかくて。
気づいたら私は、
空くんの肩へ寄りかかったまま、
眠っていた。
◇
バスが地元へ着いた頃。
空はまだ、
夜と朝の間みたいな色をしていた。
薄い青。
白っぽい空。
静かな駅前。
私はぼんやり目を開ける。
その時。
隣から、
小さな声。
「……起きた?」
低い声。
空くんの声。
繋いだままの手に目を向けたあと。
はっとして。
私は一気に飛び起きた。
「ご、ごめん!!」
空くんが眉を寄せる。
「……重」
「ひどいーっ!!」
少し間を置いて。
空くんが、
自分の肩を指差した。
「あと、
よだれ」
「……え?」
私は恐る恐る、
空くんのパーカーを見る。
肩のところに。
うっすら跡。
「っっっ!!?」
私は一気に顔が熱くなる。
「ほ、ほんとごめん!!!」
慌てて鞄からハンカチを取り出す。
最悪。
消えたい。
私は半泣きのまま、
必死に肩を拭いた。
「ごめんってば……!」
空くんが、
小さくため息をつく。
「……バカ」
そう言いながら。
口元は、
少しだけ緩んでいた。
「空くんが手離さないからでしょ!?」
反射で言い返す。
その瞬間。
「……知ってる」
空くんが、ふっと笑う。
繋いだ手には、
まだ空くんの温もりが残っていた。
◇
駅前のコンビニ。
白い灯り。
早朝の静けさ。
私は温かいカフェオレを両手で包みながら、
小さく息を吐く。
「あったか……」
空くんは隣で、
ブラックコーヒー。
相変わらず。
「苦くないの?」
「全然」
「大人ぶってる」
「まだ言う?」
私は笑った。
空くんも、
少し笑ってる。
◇
コンビニを出る。
朝の空気。
静かな道。
人もまだ少ない。
私たちは並んで歩く。
白い息が、
淡い朝の空へ溶けていく。
その時。
「……紬」
低い声。
私は顔を上げた。
まだ。
慣れない呼び方。
それだけで、
胸の奥が落ち着かなくなる。
空くんは前を向いたまま、
少し間を空ける。
そして。
「教職試験、
地元で受ける」
私は思わず、
足を止めそうになる。
「え?」
空くんは、
少しだけ視線を逸らした。
「大学院、終わったら」
朝の風が、
静かに吹き抜ける。
響くのは、
私と空くんの足音だけ。
私は瞬きをする。
「……なんで?」
空くんが、
ゆっくり立ち止まる。
私もつられて足を止めた。
でも。
空くんは、
前を向いたままだった。
「……紬がいるから」
ああ、また。
嬉しいのに、
うまく息ができない。
こみあげるものに気づいて。
私は慌てて顔を逸らした。
◇
「……紬」
低い声。
私は小さく返事をする。
「……なに」
空くんが、
少し困ったみたいに呟いた。
「泣くと思わなかった」
「空くんのせいだし……」
声は、
完全に涙声だった。
私だって。
泣くつもりなんて、
なかったのに。
私はマフラーへ顔を埋める。
その時。
空くんが、
静かに言った。
「……俺、
鈍いから」
私は少しだけ顔を上げる。
空くんは前を向いたまま、
ゆっくり言葉を探すみたいに続けた。
「ちゃんと分かったの、
結構あと」
朝の風。
静かな住宅街。
その中で。
空くんの声だけが、
やけに近くに聞こえる。
「ずっと、
楽だったし」
「一緒いるの、
普通だったから」
空くんが、
少しだけ目を細めた。
「……だから、
気づくの遅かった」
その瞬間。
駅の向こうから、
朝日が差し込む。
眩しさに、
私は一瞬、瞼をおろした。
そして。
空くんが、
私を見る。
「……好きだった」
低い声。
静かな朝。
その続きを、
私は息を止めて待った。
空くんは、
少しだけ困ったみたいに笑う。
「……たぶん、
あの頃からずっと」
喉が熱くなる。
空くんが、
まっすぐに私を見る。
「……今も、
ちゃんと好き」
風。
朝焼け。
遠くで鳴く鳥の声。
全部。
一瞬止まった気がした。
私は何も言えなかった。
だって。
ずっと。
ずっと聞きたかった言葉だったから。
◇
涙を拭い続ける私を見て、
空くんが、
少しだけ眉を寄せた。
「空くんの……ばか」
「……なんで」
「遅い……」
「……悪かった」
空くんの声が、
あまりに優しくて。
私はもう、
涙を拭くのをやめた。
「私だって……」
声が震える。
でも。
止めたくなかった。
ようやく言えるから。
「ずっと好きだったんだよ……」
涙で、
うまく息ができない。
「会いたかったし……」
「ずっと、
会いたかった……」
空くんは、
何も言わずに聞いていた。
ただ。
小さく、
頷きながら。
「……うん」
「……うん」
その声が、
余計に泣きそうになる。
私はぐしゃぐしゃのまま、
続けた。
「ほんとは連絡したかったし……」
「会えなくても、
ずっと忘れられなかった……」
言葉が、
うまくまとまらない。
でも。
空くんは、
急かさなかった。
静かに。
ちゃんと聞いてくれていた。
私が話し終えた後。
「……わかってる」
その声に。
私はまた、
泣きそうになる。
空くんは、
少しだけ目を細めて、
ふっと笑った。
そして。
「……顔やば」
「空くんのせい!!」
私は泣きながら叫ぶ。
また笑われるかと思ったけど。
空くんは、
小さくため息をついて。
少し困ったみたいに言った。
「……泣くなよ」
空くんの手が、
私の方へ伸びる。
でも。
それを待たずに。
私は空くんへ、
ぎゅっと抱きついていた。
まるで。
会えなかった時間を埋めるみたいに。
空くんがここにいることを、
確かめるみたいに。
「……空くんが、ずっと好き」
空くんは、
少しだけ驚いたあと。
小さく息を吐く。
そして。
私の背中へ、
そっと腕を回した。
優しい手。
額に触れる、
熱い耳。
ずっと会いたかった人の体温。
私はぎゅっと目を閉じる。
冬の朝焼けが。
私たちを、
静かに包んでいた。
結局最後までそのままだった。
空くんの手は、
あったかくて。
気づいたら私は、
空くんの肩へ寄りかかったまま、
眠っていた。
◇
バスが地元へ着いた頃。
空はまだ、
夜と朝の間みたいな色をしていた。
薄い青。
白っぽい空。
静かな駅前。
私はぼんやり目を開ける。
その時。
隣から、
小さな声。
「……起きた?」
低い声。
空くんの声。
繋いだままの手に目を向けたあと。
はっとして。
私は一気に飛び起きた。
「ご、ごめん!!」
空くんが眉を寄せる。
「……重」
「ひどいーっ!!」
少し間を置いて。
空くんが、
自分の肩を指差した。
「あと、
よだれ」
「……え?」
私は恐る恐る、
空くんのパーカーを見る。
肩のところに。
うっすら跡。
「っっっ!!?」
私は一気に顔が熱くなる。
「ほ、ほんとごめん!!!」
慌てて鞄からハンカチを取り出す。
最悪。
消えたい。
私は半泣きのまま、
必死に肩を拭いた。
「ごめんってば……!」
空くんが、
小さくため息をつく。
「……バカ」
そう言いながら。
口元は、
少しだけ緩んでいた。
「空くんが手離さないからでしょ!?」
反射で言い返す。
その瞬間。
「……知ってる」
空くんが、ふっと笑う。
繋いだ手には、
まだ空くんの温もりが残っていた。
◇
駅前のコンビニ。
白い灯り。
早朝の静けさ。
私は温かいカフェオレを両手で包みながら、
小さく息を吐く。
「あったか……」
空くんは隣で、
ブラックコーヒー。
相変わらず。
「苦くないの?」
「全然」
「大人ぶってる」
「まだ言う?」
私は笑った。
空くんも、
少し笑ってる。
◇
コンビニを出る。
朝の空気。
静かな道。
人もまだ少ない。
私たちは並んで歩く。
白い息が、
淡い朝の空へ溶けていく。
その時。
「……紬」
低い声。
私は顔を上げた。
まだ。
慣れない呼び方。
それだけで、
胸の奥が落ち着かなくなる。
空くんは前を向いたまま、
少し間を空ける。
そして。
「教職試験、
地元で受ける」
私は思わず、
足を止めそうになる。
「え?」
空くんは、
少しだけ視線を逸らした。
「大学院、終わったら」
朝の風が、
静かに吹き抜ける。
響くのは、
私と空くんの足音だけ。
私は瞬きをする。
「……なんで?」
空くんが、
ゆっくり立ち止まる。
私もつられて足を止めた。
でも。
空くんは、
前を向いたままだった。
「……紬がいるから」
ああ、また。
嬉しいのに、
うまく息ができない。
こみあげるものに気づいて。
私は慌てて顔を逸らした。
◇
「……紬」
低い声。
私は小さく返事をする。
「……なに」
空くんが、
少し困ったみたいに呟いた。
「泣くと思わなかった」
「空くんのせいだし……」
声は、
完全に涙声だった。
私だって。
泣くつもりなんて、
なかったのに。
私はマフラーへ顔を埋める。
その時。
空くんが、
静かに言った。
「……俺、
鈍いから」
私は少しだけ顔を上げる。
空くんは前を向いたまま、
ゆっくり言葉を探すみたいに続けた。
「ちゃんと分かったの、
結構あと」
朝の風。
静かな住宅街。
その中で。
空くんの声だけが、
やけに近くに聞こえる。
「ずっと、
楽だったし」
「一緒いるの、
普通だったから」
空くんが、
少しだけ目を細めた。
「……だから、
気づくの遅かった」
その瞬間。
駅の向こうから、
朝日が差し込む。
眩しさに、
私は一瞬、瞼をおろした。
そして。
空くんが、
私を見る。
「……好きだった」
低い声。
静かな朝。
その続きを、
私は息を止めて待った。
空くんは、
少しだけ困ったみたいに笑う。
「……たぶん、
あの頃からずっと」
喉が熱くなる。
空くんが、
まっすぐに私を見る。
「……今も、
ちゃんと好き」
風。
朝焼け。
遠くで鳴く鳥の声。
全部。
一瞬止まった気がした。
私は何も言えなかった。
だって。
ずっと。
ずっと聞きたかった言葉だったから。
◇
涙を拭い続ける私を見て、
空くんが、
少しだけ眉を寄せた。
「空くんの……ばか」
「……なんで」
「遅い……」
「……悪かった」
空くんの声が、
あまりに優しくて。
私はもう、
涙を拭くのをやめた。
「私だって……」
声が震える。
でも。
止めたくなかった。
ようやく言えるから。
「ずっと好きだったんだよ……」
涙で、
うまく息ができない。
「会いたかったし……」
「ずっと、
会いたかった……」
空くんは、
何も言わずに聞いていた。
ただ。
小さく、
頷きながら。
「……うん」
「……うん」
その声が、
余計に泣きそうになる。
私はぐしゃぐしゃのまま、
続けた。
「ほんとは連絡したかったし……」
「会えなくても、
ずっと忘れられなかった……」
言葉が、
うまくまとまらない。
でも。
空くんは、
急かさなかった。
静かに。
ちゃんと聞いてくれていた。
私が話し終えた後。
「……わかってる」
その声に。
私はまた、
泣きそうになる。
空くんは、
少しだけ目を細めて、
ふっと笑った。
そして。
「……顔やば」
「空くんのせい!!」
私は泣きながら叫ぶ。
また笑われるかと思ったけど。
空くんは、
小さくため息をついて。
少し困ったみたいに言った。
「……泣くなよ」
空くんの手が、
私の方へ伸びる。
でも。
それを待たずに。
私は空くんへ、
ぎゅっと抱きついていた。
まるで。
会えなかった時間を埋めるみたいに。
空くんがここにいることを、
確かめるみたいに。
「……空くんが、ずっと好き」
空くんは、
少しだけ驚いたあと。
小さく息を吐く。
そして。
私の背中へ、
そっと腕を回した。
優しい手。
額に触れる、
熱い耳。
ずっと会いたかった人の体温。
私はぎゅっと目を閉じる。
冬の朝焼けが。
私たちを、
静かに包んでいた。


