バスの中。
暗い。
小さい読書灯。
静かなエンジン音。
私たちは、
隣同士の席に座っていた。
近い。
……近い。
隣の席には、
慣れてるはずなのに。
私は赤い顔を見られないように、
窓の外を見る。
少し見上げると、
窓の向こうに星が見えた。
その時。
こつ。
「……え」
足。
空くんの足が、
私の足に当たる。
空くん。
目、
閉じてる。
寝てる。
でも。
足は、
普通に当たったまま。
……よ、避けてよ!
心の中でツッコむ。
私はそっと座り直してみる。
でも。
空くんは起きない。
相変わらず、
足は触れたまま。
呼吸が、
うまくできない。
◇
バスが、
小さく揺れる。
その瞬間。
空くんが、
少しだけこっちへ寄ってきた。
「……狭」
寝ぼけた声。
……絶対そっちの方が広いのに。
私は熱くなる耳を隠すみたいに、
窓側へ寄る。
その時。
ぶるっ。
小さく肩が震えた。
空くんが、
薄く目を開ける。
そして。
私を見る。
「……寒い?」
え。
私は一瞬、
言葉に詰まる。
「だ、大丈夫」
空くんが、
少しだけ目を細めた。
「震えてる」
次の瞬間。
ふわっ。
首元へ、
柔らかい感触が落ちてくる。
「え」
気づけば。
空くんのストールが、
二人の肩へ掛かっていた。
空くんの体温が近すぎて、
うまく息ができない。
「ち、近いよ……」
「うるさい」
空くんは、
目を閉じたまま呟く。
「……あったかいし」
そのまま。
私の肩へ、
少しだけ寄りかかってくる。
私はぎゅっとストールを握った。
◇
静かな車内。
高速道路の灯りと、
隣から伝わる体温。
私はもう、
まともに前を向けなかった。
その時。
ふいに。
ストールの中で、
何かが触れた。
「っ……」
空くんの指。
私の手首を、
軽く掴んでる。
え。
なにこれ。
呼吸が浅くなる。
なのに。
離れてほしいとは、
思えなかった。
私は恐る恐る隣を見る。
空くん。
やっぱり寝てる。
人の気も知らないで。
私は服の裾を、
ぎゅっと握りしめた。
その時。
「……逃げるなって」
え。
私は思わず息を止める。
小さい声。
寝ぼけた声。
ぼんやりした空気の中で。
掴まれた手首の熱と。
寄りかかられる重さだけが。
やけに鮮明だった。
私はもう一度、
空くんを見る。
その時。
空くんが、
ゆっくり目を開けた。
数秒の沈黙。
私はそっと、
掴まれたままの腕を持ち上げる。
「……空くん」
「ん……」
まだ少し眠そうな声。
私は口元を押さえながら、
小さく笑った。
「寝相悪い」
その瞬間。
空くんが、
ゆっくり自分の手を見る。
そして。
ぴたりと止まった。
私は吹き出しそうになる。
「空く――」
その時。
空くんの手が、
ゆっくり下りてくる。
手首。
指先。
そして。
そのまま。
私の手を、
ちゃんと握った。
空くんは、
窓の外を見たまま、
小さく言う。
「……離すなよ」
低い声。
「……今さら」
高速道路の灯りが、
窓へ流れていく。
静かな夜。
繋がれた手。
同じストールの中の、
微かな体温。
私は何も言えなかった。
その代わり。
ぎゅっと。
小さく握り返す。
隣で。
空くんが、
少しだけ笑った気がした。
窓の外。
夜明け前の空が、
静かに流れていた。
暗い。
小さい読書灯。
静かなエンジン音。
私たちは、
隣同士の席に座っていた。
近い。
……近い。
隣の席には、
慣れてるはずなのに。
私は赤い顔を見られないように、
窓の外を見る。
少し見上げると、
窓の向こうに星が見えた。
その時。
こつ。
「……え」
足。
空くんの足が、
私の足に当たる。
空くん。
目、
閉じてる。
寝てる。
でも。
足は、
普通に当たったまま。
……よ、避けてよ!
心の中でツッコむ。
私はそっと座り直してみる。
でも。
空くんは起きない。
相変わらず、
足は触れたまま。
呼吸が、
うまくできない。
◇
バスが、
小さく揺れる。
その瞬間。
空くんが、
少しだけこっちへ寄ってきた。
「……狭」
寝ぼけた声。
……絶対そっちの方が広いのに。
私は熱くなる耳を隠すみたいに、
窓側へ寄る。
その時。
ぶるっ。
小さく肩が震えた。
空くんが、
薄く目を開ける。
そして。
私を見る。
「……寒い?」
え。
私は一瞬、
言葉に詰まる。
「だ、大丈夫」
空くんが、
少しだけ目を細めた。
「震えてる」
次の瞬間。
ふわっ。
首元へ、
柔らかい感触が落ちてくる。
「え」
気づけば。
空くんのストールが、
二人の肩へ掛かっていた。
空くんの体温が近すぎて、
うまく息ができない。
「ち、近いよ……」
「うるさい」
空くんは、
目を閉じたまま呟く。
「……あったかいし」
そのまま。
私の肩へ、
少しだけ寄りかかってくる。
私はぎゅっとストールを握った。
◇
静かな車内。
高速道路の灯りと、
隣から伝わる体温。
私はもう、
まともに前を向けなかった。
その時。
ふいに。
ストールの中で、
何かが触れた。
「っ……」
空くんの指。
私の手首を、
軽く掴んでる。
え。
なにこれ。
呼吸が浅くなる。
なのに。
離れてほしいとは、
思えなかった。
私は恐る恐る隣を見る。
空くん。
やっぱり寝てる。
人の気も知らないで。
私は服の裾を、
ぎゅっと握りしめた。
その時。
「……逃げるなって」
え。
私は思わず息を止める。
小さい声。
寝ぼけた声。
ぼんやりした空気の中で。
掴まれた手首の熱と。
寄りかかられる重さだけが。
やけに鮮明だった。
私はもう一度、
空くんを見る。
その時。
空くんが、
ゆっくり目を開けた。
数秒の沈黙。
私はそっと、
掴まれたままの腕を持ち上げる。
「……空くん」
「ん……」
まだ少し眠そうな声。
私は口元を押さえながら、
小さく笑った。
「寝相悪い」
その瞬間。
空くんが、
ゆっくり自分の手を見る。
そして。
ぴたりと止まった。
私は吹き出しそうになる。
「空く――」
その時。
空くんの手が、
ゆっくり下りてくる。
手首。
指先。
そして。
そのまま。
私の手を、
ちゃんと握った。
空くんは、
窓の外を見たまま、
小さく言う。
「……離すなよ」
低い声。
「……今さら」
高速道路の灯りが、
窓へ流れていく。
静かな夜。
繋がれた手。
同じストールの中の、
微かな体温。
私は何も言えなかった。
その代わり。
ぎゅっと。
小さく握り返す。
隣で。
空くんが、
少しだけ笑った気がした。
窓の外。
夜明け前の空が、
静かに流れていた。


