冬。
外はもう暗くて。
図書館の窓は、
少しだけ私を映している。
閉館時間。
返却棚。
カウンター。
静かな館内。
私は返却された本を抱えたまま、
小さくため息を吐く。
「……最悪」
利用者さんが予約していた本。
確認ミスで、
別の人へ貸し出してしまった。
先輩が気づいてくれたから、
大きな問題にはならなかった。
「大丈夫だよ」
そう言って、
笑ってくれた。
でも。
笑ってもらえる方が、
余計に申し訳ない。
何回息を吐いても、
胸のあたりだけ重かった。
私はカウンターへ戻って、
視線を落とす。
その時。
目に入った。
腕時計。
シャンパンゴールドの文字盤。
細いオレンジのベルト。
空くんが選んでくれた時計。
『星野っぽいから』
あの時の声が、
ふっと頭に浮かぶ。
図書館の白い灯りを映して、
文字盤は今日もちゃんと光ってる。
私は指先で、
そっと時計へ触れる。
……どこが、
私っぽいんだろう。
そう思った瞬間。
なんか急に、
情けなくなって。
私はそのまま机に突っ伏した。
◇
帰り道。
夜風。
私は携帯を見つめた。
何かあった時。
気づけば、
空くんの名前を探している。
六年も、
会ってなかったはずなのに。
少し迷ってから、
画面を開く。
『今日やらかした』
送信。
私は携帯をポケットへ戻しかける。
その時。
ぶるっ。
『朝比奈 空』
……電話。
私は慌てて耳へ当てた。
「も、もしもし!?」
『……何した』
低い声。
私は思わず立ち止まる。
「え」
『やらかしたんだろ』
「……なんで電話なの?」
『文字だと長くなる』
いつもの調子に、
私は気づくと笑ってしまっていた。
◇
「予約の確認、
ちゃんとしてなくて……」
私は歩きながら、
ぽつぽつ話す。
空くんは途中で、
ほとんど何も言わない。
でも、
時々聞こえる短い相槌。
……ちゃんと聞いてくれてる。
全部話し終わったあと。
『……司書何年やってんの』
「二年目」
『まだ新人じゃん』
「え?」
『そんな顔するなってこと』
私はマフラーに顔を埋めた。
「……顔、
見てないくせに」
『……分かるだろ』
いつもより柔らかい声に、
私は何も言えなくなる。
少しだけ静かになったあと。
『……星野』
「ん?」
『反省できるの、
お前の長所』
私は黙る。
『テキトーだったら、
そんな落ち込まない』
言葉が出ない。
空くんも、
しばらく黙っていた。
そのあと。
『……今日走れよ』
「え?」
『全部解決する』
私は笑った。
「……暴論すぎ!」
耳元で、
小さく笑う声。
そして。
『……俺も走る』
「え」
『負けた方、
ジュースな』
私は瞬きをする。
「どうやって判断するのよ!」
『知らない』
電話の向こうで、
また小さく笑う声。
さっきまで苦しかった胸は、
気づけば少し軽くなっていた。
◇
「じゃ、
ちゃんと寝ろ」
「空くんもね」
『ん』
通話が切れる。
静かな夜道。
私は携帯を下ろして、
視線を落とした。
腕時計。
街灯の灯りを映して、
静かに光ってる。
気づけば。
さっきより、
ちゃんと腕になじんで見えた。
……空くんは。
相変わらず。
私が前を向くのに必要な言葉を、
ちゃんと知ってる。
私は小さく息を吐く。
ポケットへ携帯をしまって、
もう一度歩き出した。
明日は、
ちゃんと笑えそうだった。
外はもう暗くて。
図書館の窓は、
少しだけ私を映している。
閉館時間。
返却棚。
カウンター。
静かな館内。
私は返却された本を抱えたまま、
小さくため息を吐く。
「……最悪」
利用者さんが予約していた本。
確認ミスで、
別の人へ貸し出してしまった。
先輩が気づいてくれたから、
大きな問題にはならなかった。
「大丈夫だよ」
そう言って、
笑ってくれた。
でも。
笑ってもらえる方が、
余計に申し訳ない。
何回息を吐いても、
胸のあたりだけ重かった。
私はカウンターへ戻って、
視線を落とす。
その時。
目に入った。
腕時計。
シャンパンゴールドの文字盤。
細いオレンジのベルト。
空くんが選んでくれた時計。
『星野っぽいから』
あの時の声が、
ふっと頭に浮かぶ。
図書館の白い灯りを映して、
文字盤は今日もちゃんと光ってる。
私は指先で、
そっと時計へ触れる。
……どこが、
私っぽいんだろう。
そう思った瞬間。
なんか急に、
情けなくなって。
私はそのまま机に突っ伏した。
◇
帰り道。
夜風。
私は携帯を見つめた。
何かあった時。
気づけば、
空くんの名前を探している。
六年も、
会ってなかったはずなのに。
少し迷ってから、
画面を開く。
『今日やらかした』
送信。
私は携帯をポケットへ戻しかける。
その時。
ぶるっ。
『朝比奈 空』
……電話。
私は慌てて耳へ当てた。
「も、もしもし!?」
『……何した』
低い声。
私は思わず立ち止まる。
「え」
『やらかしたんだろ』
「……なんで電話なの?」
『文字だと長くなる』
いつもの調子に、
私は気づくと笑ってしまっていた。
◇
「予約の確認、
ちゃんとしてなくて……」
私は歩きながら、
ぽつぽつ話す。
空くんは途中で、
ほとんど何も言わない。
でも、
時々聞こえる短い相槌。
……ちゃんと聞いてくれてる。
全部話し終わったあと。
『……司書何年やってんの』
「二年目」
『まだ新人じゃん』
「え?」
『そんな顔するなってこと』
私はマフラーに顔を埋めた。
「……顔、
見てないくせに」
『……分かるだろ』
いつもより柔らかい声に、
私は何も言えなくなる。
少しだけ静かになったあと。
『……星野』
「ん?」
『反省できるの、
お前の長所』
私は黙る。
『テキトーだったら、
そんな落ち込まない』
言葉が出ない。
空くんも、
しばらく黙っていた。
そのあと。
『……今日走れよ』
「え?」
『全部解決する』
私は笑った。
「……暴論すぎ!」
耳元で、
小さく笑う声。
そして。
『……俺も走る』
「え」
『負けた方、
ジュースな』
私は瞬きをする。
「どうやって判断するのよ!」
『知らない』
電話の向こうで、
また小さく笑う声。
さっきまで苦しかった胸は、
気づけば少し軽くなっていた。
◇
「じゃ、
ちゃんと寝ろ」
「空くんもね」
『ん』
通話が切れる。
静かな夜道。
私は携帯を下ろして、
視線を落とした。
腕時計。
街灯の灯りを映して、
静かに光ってる。
気づけば。
さっきより、
ちゃんと腕になじんで見えた。
……空くんは。
相変わらず。
私が前を向くのに必要な言葉を、
ちゃんと知ってる。
私は小さく息を吐く。
ポケットへ携帯をしまって、
もう一度歩き出した。
明日は、
ちゃんと笑えそうだった。


