星野は、ずっと星野
空くんが向こうに戻ってからも。
連絡は、
ちゃんと続いた。
……といっても。
『暑い』
とか。
『今月の新刊、
めっちゃ良かった!』
とか。
送るのは、
だいたい私からだったけど。
でも。
空くんはちゃんと返してくれる。
『ちゃんと水飲めよ』
とか。
『読んだ。好きそうだと思った』
とか。
短いけど。
前より少しだけ、
優しい。
それがなんか、
くすぐったかった。
◇
ある日の帰り道。
「紬って落ち着いてるよね」
同期の子が、
何気なく言った。
褒め言葉だと思う。
でも。
家に帰ってからも、
その言葉が頭に残った。
落ち着いてる。
……昔の私を知ってる人が聞いたら、
笑うだろうな。
私はベッドに寝転がりながら、
携帯を開く。
空くんとのトーク画面。
少し迷って。
打ち込んだ。
『私、変わった?』
送信。
◇
返信が来ない。
一時間。
二時間。
私はぼんやり天井を見つめながら、
携帯を握りしめた。
……変なメール送った。
急に何、って思われたかも。
◇
ぶるっ。
携帯が震える。
『朝比奈 空』
電話。
私は慌てて画面を見る。
「も、もしもし」
『ごめん、遅くなって』
低い声。
私は瞬きをする。
「え、それでわざわざ電話?」
『すぐ拗ねるから』
「拗ねないもん!」
ふっ。
小さく笑う声。
『あのメール、』
言いかけたところで。
電話の向こうから、
明るい声が聞こえた。
男の人の声。
知らない声。
「……大学?」
『学祭準備』
「そっか」
もう一度、
誰かが空くんに話しかける声。
『悪い、かけ直す。起きてて』
ぷつっ。
電話が切れた。
◇
静かになった部屋で、
私は天井を見つめた。
学祭準備。
知らない声。
知らない場所で、
知らない時間を過ごしてる空くん。
……当たり前のことなのに。
電話の向こうの、
知らない笑い声が。
夜になっても、
頭から離れなかった。
懐かしいのか。
今、感じてることなのか。
それすら、
よく分からなかった。
思い出すのは、
卒業式の日。
帰り道。
背中を見送った、
あの夕方。
空くんが一度だけ、
振り返った。
一歩だけ。
戻りかけた。
……なんで今、
思い出すんだろう。
◇
気づいたら、
うとうとしていた。
ぶるっ。
携帯が震える。
『朝比奈 空』
私は慌てて画面を見る。
時計は、
もう深夜に近かった。
「……もしもし」
眠そうな声が出た。
『おまたせ』
「ありがと」
少しの間。
『で、あのメール。なに』
私は少しだけ笑った。
「……変なメールだったね」
『変だった』
即答。
「ひどい」
空くんが笑う。
私は天井を見上げながら、
続ける。
「なんか最近、
昔と変わったなって思って」
「同期に、
落ち着いてるねって言われて」
空くんは何も言わない。
「……あの頃は、
ずっと笑ってた気がする」
空くんが、
ふっと笑った。
「いや」
「え?」
「色んな顔してたよ」
「……どんな顔よ」
少しだけ。
声が笑ってるのが分かった。
「よく拗ねてた」
「っ……拗ねてないし!」
「今も拗ねてる」
「ちがう!!」
耳元から、
小さく笑う声。
私はむっと口を尖らせながら、
枕を抱きしめた。
その時。
「……変わってないよ」
その声に、
呼吸を止める。
「星野は、
ずっと星野」
私は天井を見つめた。
何も言えなかった。
だって。
私が忘れかけていた私を。
空くんはずっと、
覚えていたみたいだった。
「……空くん」
「はい」
「帰ってきたら」
「ん?」
「また走ろうよ」
少しの間。
「……気が向いたら」
「それ、来るやつじゃん」
「さあ」
空くんが、
また小さく笑った。
窓の外。
深夜の空に、
星が少し増えていた。
空くんが向こうに戻ってからも。
連絡は、
ちゃんと続いた。
……といっても。
『暑い』
とか。
『今月の新刊、
めっちゃ良かった!』
とか。
送るのは、
だいたい私からだったけど。
でも。
空くんはちゃんと返してくれる。
『ちゃんと水飲めよ』
とか。
『読んだ。好きそうだと思った』
とか。
短いけど。
前より少しだけ、
優しい。
それがなんか、
くすぐったかった。
◇
ある日の帰り道。
「紬って落ち着いてるよね」
同期の子が、
何気なく言った。
褒め言葉だと思う。
でも。
家に帰ってからも、
その言葉が頭に残った。
落ち着いてる。
……昔の私を知ってる人が聞いたら、
笑うだろうな。
私はベッドに寝転がりながら、
携帯を開く。
空くんとのトーク画面。
少し迷って。
打ち込んだ。
『私、変わった?』
送信。
◇
返信が来ない。
一時間。
二時間。
私はぼんやり天井を見つめながら、
携帯を握りしめた。
……変なメール送った。
急に何、って思われたかも。
◇
ぶるっ。
携帯が震える。
『朝比奈 空』
電話。
私は慌てて画面を見る。
「も、もしもし」
『ごめん、遅くなって』
低い声。
私は瞬きをする。
「え、それでわざわざ電話?」
『すぐ拗ねるから』
「拗ねないもん!」
ふっ。
小さく笑う声。
『あのメール、』
言いかけたところで。
電話の向こうから、
明るい声が聞こえた。
男の人の声。
知らない声。
「……大学?」
『学祭準備』
「そっか」
もう一度、
誰かが空くんに話しかける声。
『悪い、かけ直す。起きてて』
ぷつっ。
電話が切れた。
◇
静かになった部屋で、
私は天井を見つめた。
学祭準備。
知らない声。
知らない場所で、
知らない時間を過ごしてる空くん。
……当たり前のことなのに。
電話の向こうの、
知らない笑い声が。
夜になっても、
頭から離れなかった。
懐かしいのか。
今、感じてることなのか。
それすら、
よく分からなかった。
思い出すのは、
卒業式の日。
帰り道。
背中を見送った、
あの夕方。
空くんが一度だけ、
振り返った。
一歩だけ。
戻りかけた。
……なんで今、
思い出すんだろう。
◇
気づいたら、
うとうとしていた。
ぶるっ。
携帯が震える。
『朝比奈 空』
私は慌てて画面を見る。
時計は、
もう深夜に近かった。
「……もしもし」
眠そうな声が出た。
『おまたせ』
「ありがと」
少しの間。
『で、あのメール。なに』
私は少しだけ笑った。
「……変なメールだったね」
『変だった』
即答。
「ひどい」
空くんが笑う。
私は天井を見上げながら、
続ける。
「なんか最近、
昔と変わったなって思って」
「同期に、
落ち着いてるねって言われて」
空くんは何も言わない。
「……あの頃は、
ずっと笑ってた気がする」
空くんが、
ふっと笑った。
「いや」
「え?」
「色んな顔してたよ」
「……どんな顔よ」
少しだけ。
声が笑ってるのが分かった。
「よく拗ねてた」
「っ……拗ねてないし!」
「今も拗ねてる」
「ちがう!!」
耳元から、
小さく笑う声。
私はむっと口を尖らせながら、
枕を抱きしめた。
その時。
「……変わってないよ」
その声に、
呼吸を止める。
「星野は、
ずっと星野」
私は天井を見つめた。
何も言えなかった。
だって。
私が忘れかけていた私を。
空くんはずっと、
覚えていたみたいだった。
「……空くん」
「はい」
「帰ってきたら」
「ん?」
「また走ろうよ」
少しの間。
「……気が向いたら」
「それ、来るやつじゃん」
「さあ」
空くんが、
また小さく笑った。
窓の外。
深夜の空に、
星が少し増えていた。


