隣の席の悪魔 〜あの頃は、明日が当たり前だった

「こいつと俺、
一緒にしないで」

空くんが、すました顔で言う。

「脳みそが違う。
こいつ、馬鹿だから」

「はぁぁぁ!?」

ひどい。

ひどすぎるでしょ。

私は机をばんっと叩いた。

「誰が馬鹿よ!!」

「星野、
こいつ学年トップ候補だぞ?」

ノッポ――もとい、葛西くんが笑いながら言う。

「塾も行ってないのに
めちゃくちゃ頭いい。
みんな“天才”って言ってる」

それは知ってる。

有名だもん。

静かで。

頭よくて。

なんか近寄りがたくて。

そして。

小さい。

……そこ重要。

でも。

引っかかることがある。

「……天才ってわけじゃ
ないと思うけどなー」

ぴたり。

葛西くんの動きが止まる。

「え?」

空くんも顔を上げた。

「星野、
敵視してんの?」

「してないし!」

「身長似てるから、
対抗心?」

「違うわ
ノッポ野郎!」

……しまった。

葛西くんが笑う。

「じゃあなんで?」

「……え」

私は、ちらっと空くんを見る。

空くんは何も言わない。

ただ、
静かにこっちを見ている。

なんだろ。

試されてるみたいな目。

私は視線を逸らした。

さっきの数学の授業中。

隣を見た時。

空くんのノートが見えた。

先生が黒板に書いていた式とは別の、小さな計算。

何回も書き直した跡。

消しゴムの跡。

ページの端が、
擦れて黒くなっていた。

私は空くんの仕草を真似するように、
目を細めた。

「ノート、
めっちゃ書いてたし」

「だから、
天才じゃなくて――」

私は小さく笑った。

「努力型、でしょ」

沈黙。

葛西くんは、
ぽかんとしてる。

空くんの顔は変わらない。

え。

怖い。

うそ。

これも地雷?

すると。

空くんが、
ふっと目を逸らした。

「……うるさい」

小さい声。

「え、なに!?
怒った!?」

「別に」

でも。

耳、赤い。

……え?

まさか。

照れてる?

いやいや。

そんなわけ――

「空、
照れてんじゃん」

葛西くんが、
にやっと笑う。

「は?」

「見抜かれて嬉しかった?」

「黙れ」

低い声。

……あれ。

まじで?

この人、
なんかずるい。

私は調子に乗った。

机から紙を一枚取り出して、シャーペンを走らせる。

黒い丸を三つ。

細い棒を六本。

頭に、
ぴょこんと触覚。

そして。

私は、
得意げに紙を差し出した。

「できた!!」

空くんは、紙を見たまま、少し遅れて口を開いた。

「……何これ」

「ありんこ!!」

私はにっこり笑った。

「空くんにそっっっくりだから、
あげる!」

沈黙。

空くんの横で、
葛西くんの肩が震えてる。

空くんは、
無表情。

……あれ?

やばい?

次の瞬間。

ガタン。

「……星野」

低い声。

静かに立ち上がる空くん。

あ。

これ。

終わった。