卒業式当日の朝。
教室へ入ると、
机の上に卒業アルバムが置かれていた。
「うわー!!」
「見せて見せて!」
朝から教室は騒がしい。
寄せ書き。
写真。
笑い声。
みんな浮かれてる。
でも。
なんか。
胸の奥だけ、
落ち着かなかった。
私はアルバムを抱えたまま、
ぼんやり窓の外を見る。
ガラッ。
後ろのドアが開く音。
でも。
私はそのまま動かなかった。
その時。
「……おはよ」
低い声。
はっと顔を上げる。
空くん。
え。
いつの間に。
私は慌てて姿勢を正した。
「お、おはよう!」
空くんが、
一瞬立ち止まる。
でも。
何も言わないまま席へ座った。
◇
そのあとも。
私はアルバムを開いたり閉じたりしながら、
ずっとぼーっとしていた。
教室はうるさいのに。
頭の中だけ、
変に静かだった。
その時。
小さく、
ため息。
顔を上げる。
空くん。
そして。
「……星野」
「ん?」
「貸して」
私は慌ててアルバムを差し出した。
空くんは、
隣の席で、
さらさらとペンを走らせる。
静かな音。
私はなんとなく、
その横顔を見ていた。
長いまつ毛。
少しクセのある前髪。
真剣な顔。
窓から入る春の風が、
空くんの髪を揺らす。
その横顔を見ているだけで、
なんか苦しかった。
◇
「はい」
空くんが、
アルバムを閉じて返してくる。
「ありがと!」
私は慌てて受け取る。
でも。
開こうとした瞬間。
「……今見るな」
顔を上げる。
空くんは、
少しだけ視線を逸らしてる。
私は笑った。
「なにそれ!」
「うるさい」
でも。
耳。
赤い。
◇
卒業式。
体育館。
拍手。
校歌。
卒業証書。
全部、
ぼんやりしてる。
ただ。
前の列にいる空くんの背中だけ、
やけに目に入った。
制服の肩。
少し跳ねた髪。
呼ばれて立ち上がる姿。
卒業っていうより。
“当たり前”が、
終わる気がした。
◇
式が終わる。
体育館の拍手が、
少しずつ遠くなる。
渡り廊下。
春の風。
卒業証書。
「空くん」
声をかける。
空くんが、
こっちを見る。
「……なに」
いつもの声。
それだけで、
なんか安心してしまう。
「卒業だね」
「ん」
短い返事。
その時。
空くんが、
ちらっと私の顔を覗いた。
「……泣かなかったんだな」
少しだけ、
意外そうな声。
私は視線を逸らす。
「……空くんこそ」
「泣かない」
「知ってる」
少しだけ笑う。
でも。
次の瞬間。
空くんが、
そっと目を細めた。
「……その顔やめろ」
私は制服の裾を、
ぎゅっと握る。
廊下の窓から、
春の風が吹き込む。
揺れるカーテン。
遠くから聞こえる、
笑い声。
卒業したばかりの学校。
その瞬間。
空くんが、
小さくため息をついた。
そして。
私の頭を、
くしゃっと撫でる。
乱れる前髪。
額に触れる指。
その手が、
やけに優しくて。
一気に、
こみあげてきた。
「っ……」
溢れ出る涙を、
私は慌てて拭う。
その時。
空くんが、
少しだけ眉を寄せる。
困ったみたいに。
そのまま。
何かを堪えるみたいに、
目を細めた。
そして。
優しく笑って。
「……泣きすぎ」
そう言って。
空くんの手が、
もう一度私の髪に触れる。
今度は。
乱れた前髪を整えるみたいに。
ゆっくり。
指先が、
何度か髪を梳いていく。
春の風。
揺れるカーテン。
隣に立つ、
空くんの気配。
それが、
やけに近かった。
教室へ入ると、
机の上に卒業アルバムが置かれていた。
「うわー!!」
「見せて見せて!」
朝から教室は騒がしい。
寄せ書き。
写真。
笑い声。
みんな浮かれてる。
でも。
なんか。
胸の奥だけ、
落ち着かなかった。
私はアルバムを抱えたまま、
ぼんやり窓の外を見る。
ガラッ。
後ろのドアが開く音。
でも。
私はそのまま動かなかった。
その時。
「……おはよ」
低い声。
はっと顔を上げる。
空くん。
え。
いつの間に。
私は慌てて姿勢を正した。
「お、おはよう!」
空くんが、
一瞬立ち止まる。
でも。
何も言わないまま席へ座った。
◇
そのあとも。
私はアルバムを開いたり閉じたりしながら、
ずっとぼーっとしていた。
教室はうるさいのに。
頭の中だけ、
変に静かだった。
その時。
小さく、
ため息。
顔を上げる。
空くん。
そして。
「……星野」
「ん?」
「貸して」
私は慌ててアルバムを差し出した。
空くんは、
隣の席で、
さらさらとペンを走らせる。
静かな音。
私はなんとなく、
その横顔を見ていた。
長いまつ毛。
少しクセのある前髪。
真剣な顔。
窓から入る春の風が、
空くんの髪を揺らす。
その横顔を見ているだけで、
なんか苦しかった。
◇
「はい」
空くんが、
アルバムを閉じて返してくる。
「ありがと!」
私は慌てて受け取る。
でも。
開こうとした瞬間。
「……今見るな」
顔を上げる。
空くんは、
少しだけ視線を逸らしてる。
私は笑った。
「なにそれ!」
「うるさい」
でも。
耳。
赤い。
◇
卒業式。
体育館。
拍手。
校歌。
卒業証書。
全部、
ぼんやりしてる。
ただ。
前の列にいる空くんの背中だけ、
やけに目に入った。
制服の肩。
少し跳ねた髪。
呼ばれて立ち上がる姿。
卒業っていうより。
“当たり前”が、
終わる気がした。
◇
式が終わる。
体育館の拍手が、
少しずつ遠くなる。
渡り廊下。
春の風。
卒業証書。
「空くん」
声をかける。
空くんが、
こっちを見る。
「……なに」
いつもの声。
それだけで、
なんか安心してしまう。
「卒業だね」
「ん」
短い返事。
その時。
空くんが、
ちらっと私の顔を覗いた。
「……泣かなかったんだな」
少しだけ、
意外そうな声。
私は視線を逸らす。
「……空くんこそ」
「泣かない」
「知ってる」
少しだけ笑う。
でも。
次の瞬間。
空くんが、
そっと目を細めた。
「……その顔やめろ」
私は制服の裾を、
ぎゅっと握る。
廊下の窓から、
春の風が吹き込む。
揺れるカーテン。
遠くから聞こえる、
笑い声。
卒業したばかりの学校。
その瞬間。
空くんが、
小さくため息をついた。
そして。
私の頭を、
くしゃっと撫でる。
乱れる前髪。
額に触れる指。
その手が、
やけに優しくて。
一気に、
こみあげてきた。
「っ……」
溢れ出る涙を、
私は慌てて拭う。
その時。
空くんが、
少しだけ眉を寄せる。
困ったみたいに。
そのまま。
何かを堪えるみたいに、
目を細めた。
そして。
優しく笑って。
「……泣きすぎ」
そう言って。
空くんの手が、
もう一度私の髪に触れる。
今度は。
乱れた前髪を整えるみたいに。
ゆっくり。
指先が、
何度か髪を梳いていく。
春の風。
揺れるカーテン。
隣に立つ、
空くんの気配。
それが、
やけに近かった。


