秒針
二月下旬。
少しだけ、
空気が春っぽくなっていた。
でも。
私は全然落ち着かなかった。
「むり……」
机に突っ伏す。
教科書。
参考書。
問題集。
見るだけで眠い。
「あと少しだろ」
隣。
空くん。
推薦で合格が決まってからも、
放課後になると普通に図書室へ来ていた。
「空くんは終わったから余裕じゃん……」
「余裕ではない」
「絶対余裕」
私はシャーペンを転がしながら、
むすっと頬を膨らませる。
窓の外は、
夕焼け。
静かな図書室。
私はシャーペンを止めて、
ぼんやり左手の腕時計を見た。
去年の春休み、
空くんが取ってくれた腕時計。
「……空くん」
「なに」
「向こう行ったらさ」
言いかけて、
止まる。
無理。
聞けない。
私は慌てて問題集を開く。
「……なんでもない」
空くんは、
何も言わなかった。
ただ。
黙ったまま、
こっちを見ていた。
◇
帰り道。
夜。
少し冷たい風。
私は空を見上げながら歩く。
「受験やだぁ……」
「今さら」
「逃げたい」
「逃げるな」
「だって!」
すると。
空くんが、
少しだけ前を向いたまま言った。
「……星野」
「ん?」
「落ちる気しない」
え。
私は空くんを見る。
空くんは、
まっすぐ前を見ていた。
「なんで?」
「走ってたし」
「え?」
空くんが、
少しだけ笑って、
私を見る。
「体力あるから」
「受験関係ある?」
私は吹き出した。
その時。
空くんがつぶやく。
「……でも」
「え?」
「ちゃんと頑張ってたし」
心臓。
どくん。
風。
白い息。
静かな夜道。
「途中で投げないって、
分かる」
私はうまく返事ができなくて、
小さく俯いた。
「……ありがと」
「……まぁ、
計算は苦手だけどな」
「ねえってばー!」
私は空くんを軽く叩く。
すると。
空くんが、
少しだけ笑った。
気づいたら。
さっきまでの不安を、
少し忘れて笑っていた。
◇
別れ道。
いつもの場所。
止まる。
空くんが言う。
「じゃ」
いつも通り。
でも。
明日は受験。
私は制服を握る。
「……終わったら走るぞ」
空くんはそう言って、
目を細めてる。
「受験終わったら」
肩の力が落ちる。
私は笑って答えた。
「うん!」
空くんの言葉。
冷たい夜の風。
私はもう一度、
左手の腕時計を見た。
秒針が、
静かに音を刻んでいた。
二月下旬。
少しだけ、
空気が春っぽくなっていた。
でも。
私は全然落ち着かなかった。
「むり……」
机に突っ伏す。
教科書。
参考書。
問題集。
見るだけで眠い。
「あと少しだろ」
隣。
空くん。
推薦で合格が決まってからも、
放課後になると普通に図書室へ来ていた。
「空くんは終わったから余裕じゃん……」
「余裕ではない」
「絶対余裕」
私はシャーペンを転がしながら、
むすっと頬を膨らませる。
窓の外は、
夕焼け。
静かな図書室。
私はシャーペンを止めて、
ぼんやり左手の腕時計を見た。
去年の春休み、
空くんが取ってくれた腕時計。
「……空くん」
「なに」
「向こう行ったらさ」
言いかけて、
止まる。
無理。
聞けない。
私は慌てて問題集を開く。
「……なんでもない」
空くんは、
何も言わなかった。
ただ。
黙ったまま、
こっちを見ていた。
◇
帰り道。
夜。
少し冷たい風。
私は空を見上げながら歩く。
「受験やだぁ……」
「今さら」
「逃げたい」
「逃げるな」
「だって!」
すると。
空くんが、
少しだけ前を向いたまま言った。
「……星野」
「ん?」
「落ちる気しない」
え。
私は空くんを見る。
空くんは、
まっすぐ前を見ていた。
「なんで?」
「走ってたし」
「え?」
空くんが、
少しだけ笑って、
私を見る。
「体力あるから」
「受験関係ある?」
私は吹き出した。
その時。
空くんがつぶやく。
「……でも」
「え?」
「ちゃんと頑張ってたし」
心臓。
どくん。
風。
白い息。
静かな夜道。
「途中で投げないって、
分かる」
私はうまく返事ができなくて、
小さく俯いた。
「……ありがと」
「……まぁ、
計算は苦手だけどな」
「ねえってばー!」
私は空くんを軽く叩く。
すると。
空くんが、
少しだけ笑った。
気づいたら。
さっきまでの不安を、
少し忘れて笑っていた。
◇
別れ道。
いつもの場所。
止まる。
空くんが言う。
「じゃ」
いつも通り。
でも。
明日は受験。
私は制服を握る。
「……終わったら走るぞ」
空くんはそう言って、
目を細めてる。
「受験終わったら」
肩の力が落ちる。
私は笑って答えた。
「うん!」
空くんの言葉。
冷たい夜の風。
私はもう一度、
左手の腕時計を見た。
秒針が、
静かに音を刻んでいた。


