隣の席の悪魔 〜あの頃は、明日が当たり前だった

二月。

朝から落ち着かなかった。

窓の外。

白っぽい冬の空。

教室。

ざわざわした声。

でも、
全部遠い。

今日は。

空くんの、
合格発表の日だ。



ガラッ。

教室のドアが開く。

その瞬間。

私は顔を上げた。

空くん。

いつもの顔。

でも、
少しだけ疲れてる。

空くんが、
隣に座る。

私は黙ったまま、
その様子を見ていた。

空くんは数秒黙って。

そして、
小さく言った。

「……受かった」

その瞬間。

胸がいっぱいになる。

「ほんと!?」

「ん」

「すごい!!」

嬉しい。

すごく嬉しい。

なのに。

胸の奥が、
ほんの少し痛かった。

だって。

本当に行っちゃうんだ。

県外。

遠くの高校。

もう。

一緒に走れない。

空くんが、
私に視線を向ける。

「……なんでそんな顔」

私は教科書を開きなおして、
笑った。

「嬉しいから!」

空くんは、
黙ったまま視線を逸らす。

その後、何も言わずに、
窓の外を見ていた。



昼休み。

空くんの周りには、
人が集まっていた。

「空すげー!」

「おめでと!」

楽しそうな声。

私は少し離れた場所から、
ぼんやりそれを見ていた。

その時。

「星野」

低い声。

顔を上げる。

空くん。

いつの間にか、
目の前にいた。

「……なに逃げてんの」

「逃げてないし」

「嘘」

短い声。

見透かされてる。

私は視線を逸らした。

その時。

空くんが、
窓の外を見たまま言った。

「今日走る?」

私は瞬きをする。

「今日?」

「ん」

その声は、
なんか、
いつもより優しかった。



夕方。

冬の空。

白い息。

私たちは、
いつもの道を走っていた。

でも。

今日は。

なんか違う。

嬉しいのに。

苦しい。

その両方が、
胸の中をぐちゃぐちゃにしていた。

「空くん」

「ん?」

「おめでとう」

走りながら、
私は小さく言った。

空くんは前を向いたまま。

「……さんきゅ」

短い返事。

でも。

なんか。

その横顔から、
目が離せなかった。



走り終わったあと。

私は空を見上げる。

冬の夜。

星。

「……星野」

「ん?」

空くんは、
少し考えてから言った。

「泣くなよ」

「泣いてないし!」

空くんは目を細めた。

「……そ」

短い声。

でも。

その言い方が、
“分かってる”
みたいで。

私は余計に、
泣きそうになった。