秋。
放課後の空気が、
少しずつ冷たくなってきた。
窓の外。
高い空。
オレンジ色の西日。
そして。
静かな図書室。
「はぁぁぁ……」
私は参考書に突っ伏した。
「無理……」
数学。
意味がわからない。
「まだ五分しか経ってない」
向かい側に座る、
空くん。
相変わらず、
涼しい顔で問題集を解いてる。
なんなのこの人。
「空くん、
頭の作り違うでしょ」
「努力型って言ったの、
お前」
「……そうだった……」
私はシャーペンを机に置いた。
「だって眠いもん……」
「昨日何時に寝た」
「一時」
「馬鹿」
即答。
ひどい。
でも。
少しだけ笑ってる。
◇
西日が、
机をオレンジ色に染めていく。
ページをめくる音。
遠くで鳴くカラス。
静かな図書室。
最近。
放課後は、
ずっとここだった。
机の上に増えていく、
参考書。
暗記帳。
赤い訂正ペン。
気づけば、
“その先”の話ばかりになっていた。
でも。
夏祭りの日。
あの背中に、
しがみついた時みたいに。
空くんの近くにいると、
落ち着いた。
「……ここ」
空くんが、
私のノートを指差す。
「計算違う」
「え?」
私は慌ててノートを見る。
……ほんとだ。
「なんで分かるの!?」
「見えた」
「怖っ!!」
すると。
ふっ、と。
小さく笑う声。
「空くんって、
先生向いてそう」
「無理」
「なんで?」
「うるさい生徒がいるから」
「偏見!」
「いるだろ、
お前みたいな」
「ひどい!!」
その時。
ふわっと風が吹き込み、
微かに甘い香りがした。
金木犀。
私は窓の外を見る。
夕焼け。
図書室。
空くん。
……あ。
あれから、
もう一年経つんだ。
その時。
空くんが言った。
「……星野」
「ん?」
「志望校、
決めたの」
え。
私は少しだけ黙る。
そして。
小さく頷いた。
「うん」
……空くんとは、
違う高校。
夏祭りの日。
“また来ればいいだろ”
そう言った空くんの声を、
ふと思い出す。
私は少し俯きながら言った。
「……もう、
秋だしね」
空くんは、
前を向いたまま。
「そっか」
短い声。
空くんは、
小さく頷くだけだった。
窓の外。
オレンジ色の空が、
少しずつ夜に近づいていく。
◇
閉館時間を知らせる音楽が、
そっと図書室に響く。
私は参考書を閉じながら、
小さく伸びをした。
「疲れたぁ……」
「集中力なさすぎ」
「空くん基準で言わないで!」
私はむっとしながら鞄を持つ。
「……でも」
「え?」
空くんは参考書を閉じながら、
言った。
「前より解けるようになってる」
私は瞬きをする。
空くんは、
普通の顔。
でも。
その声がやけに優しくて。
私は笑った。
「……ありがと」
西日が、
机の端を静かに照らしていた。
放課後の空気が、
少しずつ冷たくなってきた。
窓の外。
高い空。
オレンジ色の西日。
そして。
静かな図書室。
「はぁぁぁ……」
私は参考書に突っ伏した。
「無理……」
数学。
意味がわからない。
「まだ五分しか経ってない」
向かい側に座る、
空くん。
相変わらず、
涼しい顔で問題集を解いてる。
なんなのこの人。
「空くん、
頭の作り違うでしょ」
「努力型って言ったの、
お前」
「……そうだった……」
私はシャーペンを机に置いた。
「だって眠いもん……」
「昨日何時に寝た」
「一時」
「馬鹿」
即答。
ひどい。
でも。
少しだけ笑ってる。
◇
西日が、
机をオレンジ色に染めていく。
ページをめくる音。
遠くで鳴くカラス。
静かな図書室。
最近。
放課後は、
ずっとここだった。
机の上に増えていく、
参考書。
暗記帳。
赤い訂正ペン。
気づけば、
“その先”の話ばかりになっていた。
でも。
夏祭りの日。
あの背中に、
しがみついた時みたいに。
空くんの近くにいると、
落ち着いた。
「……ここ」
空くんが、
私のノートを指差す。
「計算違う」
「え?」
私は慌ててノートを見る。
……ほんとだ。
「なんで分かるの!?」
「見えた」
「怖っ!!」
すると。
ふっ、と。
小さく笑う声。
「空くんって、
先生向いてそう」
「無理」
「なんで?」
「うるさい生徒がいるから」
「偏見!」
「いるだろ、
お前みたいな」
「ひどい!!」
その時。
ふわっと風が吹き込み、
微かに甘い香りがした。
金木犀。
私は窓の外を見る。
夕焼け。
図書室。
空くん。
……あ。
あれから、
もう一年経つんだ。
その時。
空くんが言った。
「……星野」
「ん?」
「志望校、
決めたの」
え。
私は少しだけ黙る。
そして。
小さく頷いた。
「うん」
……空くんとは、
違う高校。
夏祭りの日。
“また来ればいいだろ”
そう言った空くんの声を、
ふと思い出す。
私は少し俯きながら言った。
「……もう、
秋だしね」
空くんは、
前を向いたまま。
「そっか」
短い声。
空くんは、
小さく頷くだけだった。
窓の外。
オレンジ色の空が、
少しずつ夜に近づいていく。
◇
閉館時間を知らせる音楽が、
そっと図書室に響く。
私は参考書を閉じながら、
小さく伸びをした。
「疲れたぁ……」
「集中力なさすぎ」
「空くん基準で言わないで!」
私はむっとしながら鞄を持つ。
「……でも」
「え?」
空くんは参考書を閉じながら、
言った。
「前より解けるようになってる」
私は瞬きをする。
空くんは、
普通の顔。
でも。
その声がやけに優しくて。
私は笑った。
「……ありがと」
西日が、
机の端を静かに照らしていた。


