夏。
セミの声。
窓の外。
真っ青な空。
教室の後ろには、
進路希望調査の紙。
気づけば。
みんな、
“その先”の話をするようになっていた。
「紬どこ受けるの?」
「まだ悩んでるー!」
そんな会話。
私はシャーペンを回しながら、
ぼんやり窓を見る。
その時。
隣から、
低い声。
「……星野」
「ん?」
空くん。
真面目な顔。
「今日、
走るか」
「走る!」
私はすぐ笑った。
でも。
その時の空くんは、
少しだけ、
いつもと違って見えた。
◇
放課後。
夕方。
オレンジ色の空。
私たちは、
いつもみたいに走っていた。
でも。
今日は。
会話が少ない。
風の音。
足音。
沈黙。
その全部が、
なんか苦しかった。
走り終わる。
息を整える。
私は空を見上げた。
夏の空。
綺麗。
「……高校決まった」
突然聞こえた声に、
急いで振り向く。
「ほんと!?
どこ!?」
空くんは黙る。
そして。
視線を逸らしたまま言った。
「……県外」
一瞬。
意味が分からなかった。
「え?」
「寮あるとこ」
心臓。
どくん。
「……遠いの?」
自分でもびっくりするくらい、
小さい声。
空くんは少しだけ頷いた。
「まぁ」
風。
静か。
セミの声だけが遠い。
「そっか……」
私は笑おうとした。
「空くんっぽいね」
でも。
うまく笑えない。
声。
変じゃなかったかな。
分からない。
空くんは何も言わない。
ただ。
少しだけ。
苦しそうな顔してた。
その時。
やっと気づく。
高校。
県外。
寮。
放課後。
ランニング。
帰り道。
来年の春。
ここに、空くんはいない。
「……星野」
低い声。
振り向く。
空くんは、
少しだけ困った顔。
でも。
私はそれ以上見れなかった。
目の前が滲み始めたことに
気づいたから。
私は慌てて前を見る。
「そっか!
すごいじゃん、空くん」
声。
少し震えた。
その時。
空くんが、
少しだけ目を伏せる。
そのあと。
「……お前、
分かりやすすぎ」
……笑われたのかと思った。
でも。
違った。
空くんの声は、
いつもより少し、
掠れていた。
◇
帰り道。
いつもの別れ道。
止まる。
でも。
今日は、
何も言えない。
その時。
空くんが言う。
「……星野」
「なに」
空くんが、
小さく息を吐く。
そして。
「もし離れても、
走れよ」
え。
私は瞬きをする。
空くんは前を向いたまま。
「お前、
体力すぐ落ちるから」
……なにそれ。
いつも通りみたいな言い方。
なのに。
なんでこんな苦しいんだろ。
私は笑おうとした。
でも。
ちょっと失敗した。
「……空くんも」
「ん」
「ちゃんと走ってよね」
沈黙。
風。
夕焼け。
そして。
空くんが小さく笑った。
「……気が向いたら」
あ。
またそれ。
私は俯いたまま、
小さく笑う。
セミの声。
窓の外。
真っ青な空。
教室の後ろには、
進路希望調査の紙。
気づけば。
みんな、
“その先”の話をするようになっていた。
「紬どこ受けるの?」
「まだ悩んでるー!」
そんな会話。
私はシャーペンを回しながら、
ぼんやり窓を見る。
その時。
隣から、
低い声。
「……星野」
「ん?」
空くん。
真面目な顔。
「今日、
走るか」
「走る!」
私はすぐ笑った。
でも。
その時の空くんは、
少しだけ、
いつもと違って見えた。
◇
放課後。
夕方。
オレンジ色の空。
私たちは、
いつもみたいに走っていた。
でも。
今日は。
会話が少ない。
風の音。
足音。
沈黙。
その全部が、
なんか苦しかった。
走り終わる。
息を整える。
私は空を見上げた。
夏の空。
綺麗。
「……高校決まった」
突然聞こえた声に、
急いで振り向く。
「ほんと!?
どこ!?」
空くんは黙る。
そして。
視線を逸らしたまま言った。
「……県外」
一瞬。
意味が分からなかった。
「え?」
「寮あるとこ」
心臓。
どくん。
「……遠いの?」
自分でもびっくりするくらい、
小さい声。
空くんは少しだけ頷いた。
「まぁ」
風。
静か。
セミの声だけが遠い。
「そっか……」
私は笑おうとした。
「空くんっぽいね」
でも。
うまく笑えない。
声。
変じゃなかったかな。
分からない。
空くんは何も言わない。
ただ。
少しだけ。
苦しそうな顔してた。
その時。
やっと気づく。
高校。
県外。
寮。
放課後。
ランニング。
帰り道。
来年の春。
ここに、空くんはいない。
「……星野」
低い声。
振り向く。
空くんは、
少しだけ困った顔。
でも。
私はそれ以上見れなかった。
目の前が滲み始めたことに
気づいたから。
私は慌てて前を見る。
「そっか!
すごいじゃん、空くん」
声。
少し震えた。
その時。
空くんが、
少しだけ目を伏せる。
そのあと。
「……お前、
分かりやすすぎ」
……笑われたのかと思った。
でも。
違った。
空くんの声は、
いつもより少し、
掠れていた。
◇
帰り道。
いつもの別れ道。
止まる。
でも。
今日は、
何も言えない。
その時。
空くんが言う。
「……星野」
「なに」
空くんが、
小さく息を吐く。
そして。
「もし離れても、
走れよ」
え。
私は瞬きをする。
空くんは前を向いたまま。
「お前、
体力すぐ落ちるから」
……なにそれ。
いつも通りみたいな言い方。
なのに。
なんでこんな苦しいんだろ。
私は笑おうとした。
でも。
ちょっと失敗した。
「……空くんも」
「ん」
「ちゃんと走ってよね」
沈黙。
風。
夕焼け。
そして。
空くんが小さく笑った。
「……気が向いたら」
あ。
またそれ。
私は俯いたまま、
小さく笑う。


