隣の席の悪魔 〜あの頃は、明日が当たり前だった

「……お前、
喧嘩売ってんの?」

低い声。

切れ長の目が、細くなる。

うぉ。

怖っ。

でも。

なんか可愛い。

「え!!違う違う!
仲間見つけた!っていう感動だよ!?」

「……仲間?」

「そう!
私、首痛くなるくらい
見上げてばっかだからさー」

そこまで言って、
口を止めた。

……あ。

もしかして。

地雷だった?

恐る恐る、
もう一度隣を見る。

空くんは黙って、
小さくため息をついた。

「……お前、
初対面で失礼すぎるだろ」

「初対面じゃないよ!」

「いや、初対面だろ」

「違うもん!
私にとっては初めましてじゃない!」

「俺にとっては初めまして」

ちっ。

声が落ち着いてるから
妙に説得力がある。

なんか悔しい。

「じゃあ自己紹介しまーす!」

私は勢いよく姿勢を正した。

「ハロー!
アイム星野紬!!」

その瞬間。

「星野さん」

教室に響く、
低めの声。

教室中の視線が、
私に向く。

え。

まさか。

ゆっくり振り返る。

そこには、
教室に入ってきたばかりの先生。

呆れ顔。

「初日から元気で結構。
英語の時間ですか。」

…………。

最悪。

教室に、
くすくす笑いが広がる。

「す、すいません……」

くっ。

恥ずかしい。

穴あったら入りたい。

すると隣から、
小さな声。

「……馬鹿だ」

カチン。

視線を向ける。

空くん。

すました顔。

でも。

口角、
ちょっと上がってません?

「空くん今笑った!」

「笑ってない」

「絶対笑った!」

「気のせい」

むぅぅぅ。

なんなのこの人。

感じ悪い。

……けど、
なんか、
ちょっとどうにかしてやりたい。

私は黒板の前へ歩いていく先生を見送りながら、
むすっと隣を見る。

すると。

空くんが、
口パクで何か言ってる。

ん?

えっと。

あ。

ほ。

し。

の。

……あほしの?

数秒。

思考停止。

え。

今。

私。

アホ+星野
にされた???

「……っ!!」

何事もなかったような顔で、
黒板を見る空くん。

……ちっ。



先生の話が終わった瞬間、
ちょうどチャイムが鳴った。

キーンコーンカーンコーン。

待ってました、
休み時間!!!

私は勢いよく立ち上がる。

椅子がガタンッと鳴って、
近くの子が少しびっくりしてるけど、
今は気にしない。

こっちが大事。

私は空くんの机を、
ばんっと叩いた。

「空くーーーん!!!」

思ったより声が出て、
数人がこっちを見る。

でも。

気にしない!

こっちが大事!!

「謝ってーー!!!」

空くんが、
ゆっくり顔を上げる。

めんどくさそう。

「……は?」

「“あほしの”って言った!」

「言ってない」

「言った!」

「証拠は?」

……ぐ。

「顔に書いてあった!」

「意味が分からない」

「とにかく謝って!」

空くんはまた目を細める。

「……嫌」

ほんの少しだけ、
空くんの口角が上がる。

ムカつく。

ムカつくけど……

「空くんってさ」

「なに」

「可愛い顔して、
結構意地悪なんだね」

空くんの返事が返ってこない。

「……“可愛い”って、腹立つ」

「なんでー?」

「チビ扱いされてる気分」

私は吹き出した。

「やっぱり!!
空くんも気にしてるんじゃん!」

「……おい」

声の高さが落ちる。

でも。

楽しい。

楽しいじゃん!

すっごい楽しいじゃん!

その時。

ガタン。

誰かが空くんの机に腕を置いた。

「どんぐりの背くらべ、
してんの?」

明るい声。

振り向く。

……デカい。

でっっっかい。

ノッポ。

首痛いんですけど。

「……誰?」

「葛西浩太。
よろしく、チビ。
同小のやつから聞いた」

「はぁあ!?
誰がチビよ!!」

すると。

空くんが、
眉を寄せながら口を開いた。

「こいつと俺、
一緒にしないで」

「え?」

「脳みそが違う。
こいつ、馬鹿だから」

「はぁぁぁ!?」

空くん。

それは戦争です。